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だから、言わんこっちゃない ~EEIE Editor's VOICE~

10.03.03

ふるさとは遠きにありて思ふもの。

「ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの」(室生犀星『小景異情その二』より)

そのとおり、ふるさとは空間的に(時間的にも)遠く離れたところ(時)から、悲しみとともに回想されるべきものである。

いきなり唐突に失礼しました。
こんにちは、EEIEエディターズ1号のワタルです。
私事ですが、小学5年から高校を卒業して故郷を離れるまでの8年間を過ごした滋賀の実家を、一昨年に両親が売却したことで、故郷と呼ぶべき地を失ってしまいました。高校を卒業して以来、兵庫、東京、京都、そしてまた東京、結婚してからは大阪と移ろい住みながら、正月やお盆と年に数回、帰省するようにはしていましたが、故郷を失って、故郷への足が遠のいていたことが悔やまれます。

故郷を失ってみて初めて、「望郷」や「懐郷」という言葉に含まれる意味合いも、「望郷の念にかられる」という感情も、リアリティを持って身に染みて分かるようになりました。

考えてみれば、不思議なものですね。

初恋も、輝ける青春時代の一時も、仕事も、あるいは結婚して子どもが産まれたり、家族を喪ったり...、そうした人生の様々な出来事も、その時々にはその人やその場所、その一瞬が自分にとってかけがえのないものであるというようなことは分かりようもないけど、時を経て、時の中で忘却していく記憶の中でフッと振り返ったときに、かつての胸のときめきや鼓動、子どもの頃の何気ない出来事や・・・、そういう些末なあれこれが急に記憶の彼方から蘇ってくることがあります。
そんな時、今ではもう会うことも出来ない人や、取り戻せない場所や、再体験できない瞬間を想い、それが失われてしまったことをどうしようもなく悲しく、また懐かしく思うようになるのでしょう。

時とともに移ろい、壊れ、消えてゆく想い、それを失うことでその大切さに気付き、またそれを失ったことを悲しく想い、それに出逢えたことを懐かしく思う。
全ては時を経て後、失われゆく記憶の中で振り返って反芻し、認識することで、その人やその場所、かつて経験した瞬間を自らの生きた証として確認し、記憶の中にそっと留めておくということなのでしょう。

「望郷の念」や「懐郷」といった感情も、故郷から遠く離れ、あるいは故郷を失うことによって、初めてリアリティを持って抱くことができる感情であり、そうした感情を抱くときに、私たちは自らの生きた道筋を反芻しているのかもしれません。

そんなことを考えているときに想い出したのが、かつて月刊誌『ミーツ・リージョナル』の取材で、尼崎にたくさんある沖縄料理店に通った時のこと。

大阪の大正区とも比する程、沖縄からの出身者が多い尼崎。
かの地で沖縄料理店を営む方にお話しをお聞きすると、尼崎に沖縄出身者が移り住み始めたのは戦後まもなく、沖縄がまだアメリカ領だった頃。
1972年に沖縄が日本に返還されてからは、先に尼崎で暮らしていた同郷者を頼って、多くの人が移り住むようになったそうです。阪神尼崎駅に近い琉球民謡のライブが見られることで人気の沖縄料理店の店長さんは、「一度、沖縄を離れて、故郷を見つめ直したかったので尼崎に来た」とおっしゃっていました。

その後、取材を進めていくうちに、意外にも、移住1世の方々よりも、尼崎で生まれ育った2世、3世の方が沖縄に対する望郷の想いが強いことが分かってきた。
自らの脳裏や身体に流れる、まだ見ぬ故郷への想い。
故郷から遠く離れた異境の地で暮らす人々の胸に秘められた、遙か彼方の南の島々への望郷の想い。

それは、かの沖縄料理店で聞いた、三線の音色とともに歌われていた琉球歌の中にも歌い込められていた。

「心の故郷、沖縄に 広がる空と青い海 なちかしぬ、なちかしぬ 南の島よ」(琉球歌『心の故郷』より)

そう、やはり、ふるさとは遠く離れたところから、悲しみや懐かしさとともに回想されるものなのでしょう。

VOICE「grafが近畿2府4件を旅して考える、きれいなくらい」の取材で訪れた京都・伊根の向井酒造の親子と一緒に。都会で暮らす私たちは『望郷の念にかられる』ことを通して、故郷で生活する彼女たちと同じように郷土愛を持つことができるのだろう。

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エルマガジン社/EEIE エディターズ 「快適できれいなくらし」の姿を追い求め、日々、取材や編集に明け暮れるエルマガジン社EEIEエディターチーム。三者三様なパーソナリティを全開に、仕事漬けの毎日で、自らの家庭での暮らしは「快適できれい」とは正反対のところが悩みの種…。
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