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だから、言わんこっちゃない ~EEIE Editor's VOICE~

09.05.13

grafの淡路島取材同行後記 vol.2 左官職人の久住さんのお話しを聞きながら考えた「コンビニエンス」の罪。

こんにちは。エルマガジン社 EEIE エディターズ1号です。
「EEIE かんがえる、きれいなくらし。」がスタートして1ヵ月半が経ちましたが、楽しんで頂いてますでしょうか?
まだまだよちよち歩きのこのEEIEですが、皆さんと一緒になって試行錯誤しながら、「快適できれいなくらし」のカタチを考えていきたいと思っておりますので、皆さんのご意見をお聞かせください。

さてずいぶんお待たせしちゃいましたが、VOICEの目玉企画「grafが近畿2府4件を旅して考える、きれいなくらし」、ようやく連載第2回目を本日、公開しました。
もうご覧頂けましたか?

連載第2回にgrafのメンバーが訪ねたのは淡路島。
若手の左官職人のホープとして注目され、TV番組『情熱大陸』(TBS)などでも紹介された久住有生さんを訪ねました。
その内容はhttp://www.eeie.me/voice/graf/をご覧頂くとして、久住さんのお話しを聞いて考えたのが、この時代の表層を覆い尽くす「コンビニエンス」な空気。

久住さんの関わる左官や建築の世界でも、いかに早くいかに効率よく作業を行うかといった面ばかりが注目され、何十年、何百年後の人々に建造物をいかに残すか、といった側面は忘れ去られている、とお聞きした。

翻って、雑誌の世界の話題なのが、今秋に発売される『ミシュラン 京都・大阪版』。
うどん屋とお好み焼き屋と寿司屋や高級割烹が並列で存在している大阪の街や、幾世代にも渡って引き継がれてきた街の空気が息づく京都のような街で、覆面調査員とやらがこっそり店に足を運び、星3つの安直な評価軸ですべての店をチャート式に並べてしまう、何とも粗雑で乱暴なやり方。
大阪や京都のような、その地の人々の暮らしと密接に絡み合ってできた空気や価値観が底流する生活者の街に、土足で足を踏み込むが如くにコンビニエンスな評価軸を持ち込んでくることの罪。
確かに、京都や大阪の街を知らない人間にとっては、星幾つで店の善し悪しが一目で分かるなら、簡単、便利で分かりやすくはあるだろうけど、そんなマニュアルを通してアクセスしている限りは、京都や大阪の街の本当の面白さを味わうことは不可能だ。

コンビニやファーストフード店も、ファミレスも、また外資の進出が著しい格安量販ショップでも、一元的に陳列、カタログ化されたメニューやマニュアル化された接客の場は確かに周囲に気を遣う必要もなく、簡単、便利かもしれないが、そんなコンビニエンスな文化の向こうには、その場や人が介在する時間の記憶がなく、だから何度通っても、いつも薄っぺらで、そこには記憶が生まれない。
どこまで行っても時間や空間の奥行きのない、断絶された世界。
そうしたコンビニエンスな文化の中で私たちが失ったモノは、世界の多様性と広がりを獲得するための英知と工夫だと思う。

街での遊びも仕事も、そして毎日の暮らしも、気を遣う必要のない、肉体的にも楽な、始めから結果を見透かすことができる、そんなコンビニエンスな方向に流れがちな自己といかに向き合うか、今、求められているのは、私たち一人一人の「知性」と「感性」だ。
「人の役に立ちたい」「誰かの生のために何かをしたい」
そんなところから世界の広がりは始まることを、私たちは今一度、思い出した方がいいのかもしれない。

今回の取材で感じた想いを2曲♪と1冊でもう一度。

a)MILES DAVIS 『On The Corner』(ビクターエンターテインメント)
1972年発表。60年代末~70年代前半の「エレクトリック・マイルス期」の中でも、とりわけ異彩を放つ怪盤。延々と続くドラムのハイハットと同じリズムを刻むベース、シタールやタブラなどのサウンドにマイルスのワウワウ・トランペットが絡む無調のファンクは、発売当時はジャズ・ファンの不評にも合ったが、デトロイト・テクノやドラムンベースの嚆矢であり、クラブミュージックの先達とも言える。30数年も前のマイルスの大遠投の波紋は、時間軸や空間を遙かに飛び越えて、無限にそして多様に広がり続ける。

b)町田町蔵+北澤組 『腹ふり』(徳間ジャパンコミュニケーションズ)
言わずと知れた芥川賞作家、町田康のパンクロッカー次代の1992年発売の傑作。苦悶の叫びとも独りごちとも思われるような町田の歌と、それに拮抗するフリーインプロビゼーションなサウンド。次代の表層に流されることなく、戦いを挑み続ける町田の心意気が伝わる一連の曲群は、リリースから17年を経た今でも全然、色褪せない。特に13曲目の「コンビニエンス」は、簡単、便利なコンビニ文化の行く末を早くも見通していて、町田の洞察眼や恐るべし。

c)沢木耕太郎 『無名』(幻冬舎)
単行本は2003年に幻冬舎から、2006年に幻冬舎文庫より文庫化。世間に広く知られることなく「無名」のままに亡くなった父の死に、正面から静かに向き合あいつつも、父の人生や生き方を反芻し、父との関係、父からの影響に想いを巡らすことを通して、現在の自分自身の存在を浮き彫りにする、ニュージャーナリズムの先駆、沢木耕太郎の到達点とも言える一冊。形には残らずとも、子どもの記憶や世界との繋がり方、そして子どもの暮らしの中に親子の絆は受け継がれていることを感じさせる名著。

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エルマガジン社/EEIE エディターズ 「快適できれいなくらし」の姿を追い求め、日々、取材や編集に明け暮れるエルマガジン社EEIEエディターチーム。三者三様なパーソナリティを全開に、仕事漬けの毎日で、自らの家庭での暮らしは「快適できれい」とは正反対のところが悩みの種…。
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