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grafが近畿2府4県を旅して考えるきれいなくらし

11.02.23

Chapter.3  84歳で現役の竹細工職人、中井栄一さん。 

竹の風合いもいい竹ざる。昔はどの家にも必ず1つはありましたよね。

豆腐、菊炭と訪ねた能勢の手づくり職人さんの取材の旅。最後に訪ねるのは竹細工職人さん。最近では雑貨屋さんでも、鈴竹を使った岩手・鳥越の竹細工や富士山に自生するスス竹を遣った甲州ざるなどが人気を集めており、若い世代にもまた竹製品が広がっています。竹林の多い能勢でも、かつては竹細工職人がたくさんいたそうです。中井栄一さんは今でも竹細工を作り続けている竹細工職人の数少ない1人です。

ご自宅にお伺いすると、奥さまが出迎えてくださいました。

ガレージには、箕ざるや丸ざるなどいろんな種類の竹細工が...。

福田さん「中井さん、こんにちは。遅れてしまってすみません。栄一さんは工房ですか?」

奥さま「こんにちは。まだ作業部屋で作っていると思います。皆さんがいらっしゃると聞いたので、いろいろ籠を出してみました」

「ありがとうございます。この度はお世話になります。どれもすごくいいですね、竹細工。この蓋付きの籠は何用ですか?」

奥さま「それはご飯を入れるための籠なんですよ。昔はよく使われていたんですけどね」

「なるほどー! お櫃の代わりですか。でもいろんな使い方ができそう」

作業部屋に中井さんを訪ねました。中井さんは先祖代々続く竹細工職人の4代目で、小学校の頃からお父さんに教わりながら竹細工を始めました。戦時中などは特に忙しかったようですが、だんだんプラスチックの籠や中国製品が普及し始めて、売れなくなってしまったそうです。 中井さんも若い頃は別の仕事をずっとされていました。

そして定年後に再び、本格的に自宅で竹細工を再開しました。

  • 手作りの温かみを感じさせる、中井さんの竹ざるの数々。
  • 中井さんが作られた竹籠の数々。用途やお客さんからの注文に合わせて、様々な竹細工を作られます。

福田さん「中井さん、こんにちは。せっかくなので見学させて頂いてもいいですか?」

中井さん「どうぞどうぞ。狭いところですが、あがってください」

部屋には竹を縦に裂いた状態の細長い棒状のものが何本もあります。これを足の指で片端を押さえながら竹刀でさらに細く裂いていきます。その鮮やかな手さばき(足さばき?)に思わず「おーっ!」と歓声が。作る竹製品よって、編む竹の細さと固さは違うので、それに合わせて竹を裂かなければいけません。ちなみに竹林から竹を切ってくるのも中井さんの仕事。1年通して使う竹は、だいたい1、2月の時期にまとめて切ってくるそうです。

使い込まれた竹細工用の道具は、竹籠の穴の大きさをや形をそろえるためのヘラや、竹家具のパーツを作るための手作りの複雑な道具、「昔は鍛冶屋さんに作ってもらっていた」という使い込まれた竹刀など、見慣れない形のものばかり。

「僕は家具職人なので、道具を見ているだけでもおもしろいです」

「専用の道具って、一見何に使うものか分からないような形ですよね」

  • 縦に割いた細長い竹に、こうして小刀を差し込んで...。
  • 小刀を滑らせて、竹を薄く切り裂いていきます。

何種類か過去に作った竹細工の籠を出してもらいました。ドジョウすくいの籠、うどんなどの水を切る籠、鰻や小魚を捕るために仕掛ける『もんどり』、栗で有名な能勢でよく使われていた収穫した果物を入れるための大きな籠など、こうしてみると、竹細工が生活や仕事の道具として幅広く使われていたことがよく分かります。

「この麺類の水切り籠、売ってもらえませんか?」

中井さん「それはもう1個しかないので、次作るために残しているものなんです。すみません」

作り方を紙に書いて残している訳ではなくて、実物を見ながら作るんだそうです。

中井さん「おそらく竹細工は3年や5年で職人になれるもんではないでしょう。籠の種類によってそれぞれココという難所がありますし」

カーブになった部分や目が詰まった円形の中央部分など、見た目も大事ですが、使いやすいように細かい気配りがされていて、「これは簡単にはできないな」とgrafの家具職人のメンバーも職人目線から感心していました。

最後にお家でお茶を頂きつつ、お話しをお聞きしました。

  • 足の指で片端を押さえて、器用に細く細く竹を割いていきます。
  • 中井さんの竹細工の道具。使い込まれた道具の中には、中井さんが自分で考えて鍛冶屋さんに作ってもらったものも。

能勢名物の丁稚ようかんも一緒に頂きました。

「中井さんの竹籠は[能勢町観光物産センター]でしか買えないんですか?」

中井さん「そんなにたくさん作れるものでもないし、こんな恥ずかしいもん、出せませんわ」

「いやいや、全然そんなことないですよ! grafのショールームでも生活雑貨をたくさん扱っているんですが、販売させて頂きたいぐらいです!」

中井さん「家での作業以外に、たまに能勢の学校で竹細工の講師として授業をすることもあります」

その当時の写真が入ったファイルを見せてもらいました。中井さんに竹細工を教わった能勢高校の生徒たちの感想文などもあり、みんな最初は難しかったけれど、とても楽しんで作っていたことがよく分かります。

「ちなみに失礼ですが、中井さんお幾つなんですか?」

中井さん「うさぎ年の年男です。84歳」

「ええーっ、お若い!」 「まだまだ現役の職人ってカッコいいですね。僕もがんばろ」

  • 珍しい竹細工の水切り。これで蕎麦を作れば美味しそうです。
  • これは川や湖に仕掛けて鰻や小魚を捕る『もんどり』。

「お弟子さんはいらっしゃるんですか?」

中井さん「いやいや、弟子なんておりません。息子もたまに作っているようですが、別の仕事をしていますし...」

「後を継がれる方はいらっしゃらないんですか...。残念ですね」

福田さん「そういえば、確か[堂本豆腐店]のお父さんと同級生なんですよね?」

中井さん「そうですよ。炭焼きの小谷さんのお父さんとも同級生でした。もうこの歳じゃいろんなことは忘れるけど、竹細工だけは手が覚えているんです。手を動かすっていうのがいいんでしょうね」

そうして中井さんのお家を失礼する頃には、いつの間にか暗くなっていました。 帰り際に籠をいくつか買わせてもらいました。

「福田さん、今日はありがとうございました。また能勢に遊びに来ますね」

福田さん「こちらこそ、私も新しい能勢を発見できて、楽しかったです。また来て下さいね」

  • こちらは若竹の緑も鮮やかな竹籠。
  • 制作途中の竹ざる。1つ1つ、竹を編み上げて、針金で止めて。丁寧な作業が見受けられます。

最後に、これまた福田さんが1句、詠んでくれました。

寒月や 急がぬ指の 竹細工
(かんげつや いそがぬゆびの たけざいく)
季語「寒月」

中井さんご夫妻のお人柄とも合わさった、味わい深い1句です。

豆腐を取り置いてもらっていた[堂本豆腐店]に帰りにもう一度、立ち寄って、福田さんとは能勢でお別れ。四季折々の表情豊かな自然と魅力的な人々がいる能勢にくらす福田さんを、みんなどこかで羨ましく思いながら帰路に付きました。

  • 丁寧に細かく精緻に編み上げられた竹籠。伝統の職人技が伝わります。
  • 地元の能勢高校の高校生たちに教えた時の記念写真。現代っ子も自分で作った竹細工を手にうれしそうです。

中井さんの竹細工や能勢菊炭が買えます。

能勢町観光物産センター
大阪府豊能郡能勢町平野535
TEL/072-731-2626
営業時間/9:00〜18:00(4〜10月)、9:00〜17:00(11〜3月)
火曜休(7〜10月は無休)
http://www.town-of-nose.jp/produce/index.html

中井さんご夫婦と一緒に。夫婦仲睦まじいお2人の様子を見ていて、心が温まりました。

取材・文/天見真里子




grafからのメッセージ


grafの北摂出身・在住のスタッフにとっては、幼い頃に家族で遊びに行った場所でもあり、「近くにある自然」というイメージが強い能勢。一方、関東出身のスタッフにとっては、都心から少し離れた場所に、こんなに自然豊かな場所があることが驚きでもあり...。

しかし、実際に能勢で暮らす職人さんたちのことは全く知らなかったので、とても興味深い取材となりました。

今回参加頂いた福田さんとは、ツイッターを通して、彼女が『四季の企画室 野の』というサイトを立ち上げている情報を知り、ぜひ能勢の魅力を地元の方から伝えて頂きたいと思って、今回のナビゲーターをお願いしました。 本当にお世話になりました。

案内して頂いた、山の麓に棚田や畑、川、そして住まい、美しい里山。能勢の自然豊かな土地で、菊炭に豆腐、そして竹籠をつくる職人さんたち。能勢の誇れる美しい日本の姿を見ることができました。

[堂本豆腐店]では...
おそらく全員が初めてだった豆腐作り体験。にがりの混ぜ具合で毎回出来上がりが違うというのも手作り豆腐の良さ。そして堂本さん親子が毎日作りながら販売をされているそのライブ感が何とも良い雰囲気で、お客さんとも程よいコミュニケーションになっていることも分かりました。

「何と言っても出来立ての豆腐は旨い! これは想像以上でした。頂いたおからを使って、家でおからカレーを作りました。豆腐レシピもいろいろ研究したいと思います!」

「豆腐のシンプルな作り方を知り、体験できて、モノづくりはこうでなくてはいけないな、と省みました。お父さんの大きな手、その豆腐を作るための手から、同じ仕事を何十年と続けてきたその積み重ねが伝わってきて、感服です。これから何十年もかけて、僕もこのお父さんの手を目指そうと、新たな目標を密かに立てていました」

「あの貫禄のあるお父さんの腕。能勢の冬、朝の寒さの中でとても大変な仕事をまだ現役で続けておられるなんて...。堂本さん親子の、長い間ずっと作り続けている姿に、たくましさを感じました」

[能勢菊炭]の小谷さんのところでは...
能勢は、電気やガスのライフラインがまだ整っていなかった時代には、家事やお風呂などに使う薪や柴を供給する大事な役割を担っていた場所。大阪の暮らしを支える燃料源の中でも『池田炭(菊炭)』は有名な特産物でした。 小谷さんは、炭焼きの職人である一方で、経営者として『能勢菊炭』というブランド価値を高めることで伝統を守っていこうと、様々な商品開発、営業活動、と1人何役もこなされています。作るだけでなく、買ってもらう工夫もすることで、菊炭の存在、その良さを伝えていこうと活動されていました。

「菊炭という能勢の伝統を守り抜く小谷さんの姿勢の素晴らしさ。それだけでなく、若い人にも興味を持ってもらうために様々な商品を開発したり、若い授業員を採用したりと、あの手この手で取り組まれています。経営者としては当たり前のことなのかもしれませんが、見習うべき点が多数ありました」

「どの分野でも、新たな試みを持った方のモチベーションには刺激を受けます。私も何かお力になりたいと素直に思いました」

「季節との密接な関係、炭窯のコントロールとタイミング、限られた時間の作業の中で経験と知恵を積み上げていくその姿に、ものすごい集中力を感じました」

「小谷さんのお話は、これからのモノづくりをする人間の有り様のようなことを教えてもらっているようでした」

そして、実際里山を訪れてみて、初めて知った里山の良さとそこで今起こっている問題。全国のいろんな里山で起きている問題が、すぐ近くの能勢でも起きていることを知りました。つまり、すぐ近くの能勢の問題を解決すれば、全国で起きている問題も解決できる可能性があるということ。

「自分達の暮らしの中でグローバリズムを逆説的に捉えて、能勢の里山の課題を通して、日本全国の里山が抱える問題を解決するモデルケースに出来れば、とっても有意義な活動になるのでは...、と改めて思いました。ということで、ミーツ畑も含めて今年は里山と都会を有意義に繋ぐ取り組みにも力を入れて行きたいです!」

「クヌギの原木が生える里山が鹿やイノシシに荒らされている問題は、小谷さんたちにとっては死活問題。都会に住んでいる我々にはリアルな出来事ではないからといって、何かしら自分でもできる試みはしていくべきなのかな...、と悶々としました」

竹細工職人の中井さんのところでは...
時代の変動の中で、戦争も体験し、また会社勤めもされたり、今のくらしに辿り着くまでに様々なご苦労も多かったであろう、竹細工職人の中井さん。今はご自身の時間軸でゆっくりと竹と向き合って、作ってらっしゃいます。

「足の動きが手の様に見える程、竹に人生を懸けてきたその技術は素晴らしくて、みるみるうちに竹が製品へと変わってゆく作業をもっと見てみたいと思いました。長い時間をかけて作り上げた技術が、次の世代に受け継がれずにこのまま消える事は残念でなりません。僕たちの世代が竹籠などの昔ながらの生活道具にも注目して、伝えていかなければと感じました」

「中井さんに後継者がいらっしゃらないことをお聞きして、竹籠も大好きだし、私が受け継ぐことができればどんなにいいかとも思いましたが、長い時間を掛けないと技術も身につかないという中井さんの言葉をお聞きして、やはり半端な気持ちではできないと思い...。残念でなりません。」

「[堂本豆腐店]さんでも豆腐づくりのための様々な道具を拝見しましたが、中井さんのところでも竹細工の道具にとても惹かれました。作業に要する絶対的な時間と集中力を、この道具たちが支えていたんだなぁと思うと感服。道具たちに本当に頭が下がります」

「中井さんのご夫婦が一緒にいらっしゃるところを拝見して、奥さまにとっては、本当に自慢の旦那さんなんだなぁというのが伝わってきて、とても気持ちが温かくなりました。仲の良いご夫婦のお手本のようなお2人でした」

今回、3人の職人さんを訪ねて、学ぶべきことが本当にたくさんありました。手作りの伝統を守るには、長い時間と労力、それに長年掛けて培った知識と技術が必要。そしてそれを次の世代に伝えていかなければ、伝統や文化の継続に繋がりません。人ひとりの一生に限りがあることを思えば、一緒にモノ作りができる仲間がいることの大切さをつくづく感じました。

私達 grafも、様々なモノ作りをするチームとして、自分たちが生み出したものをちゃんと次の世代にも伝えていきたい、と思いました。そして、技術を伝え、後継者を育てていくことが、自分たちのモノ作りの仕事の発展に繋がるんだということを改めて感じました。

菊炭の原木となるクヌギの木、豆腐を作るのに汲み上げられる地下水、竹細工に使う竹...。ここで育った人たちは、食から道具に至るまで、この能勢の自然を生かしたくらしを今もされています。当たり前のことですが、自然と共存することの意味を教えてもらった気がします。

都会の中でも、そして田舎に移住された人の中にも、自然と繋がった人々の営みが、すぐ近くにあるのを知らない方も多いのではないでしょうか。

実は我々の周りにも、そんな「身近な自然」があるのではないかと思います。四季の移ろいや、自然との共存。それに手仕事の素晴らしさ。例えばゆっくり周りを眺めながら家の近くを歩いてみたり、毎日なにげなく使っている生活道具を見直してみたり...。

今回、能勢で感じたことを、一度、自分の日々のくらしに置き換えてみようかな、と思いました。

そして最後に、今回の取材のナビゲーター役をお願いした福田アイさんからも取材の感想を頂きました。

長い間食べてきた堂本さんの豆腐や、最近とても興味を持っていた小谷さんの菊炭と中井さんの竹籠。
長い歴史を持つものは、シンプルで深みがあり、清らかですね。
能勢にあるものを活かして、又は能勢にあるもののために、無理なく作くられてきた美しいモノ作りにも感銘を受けました。
ただ、竹細工職人の中井さんから後継者がいないというお話しをお聞きして、とても残念な気持ちになり、自然とつながる文化の継承に、私も何かお力になれたら、という思いに駆られました。

以前、能勢で『雑草を食べる会』や、田んぼで能勢の野菜を炭焼きにしてビールと味わう『ビアデン』といった催しを開いたことがあり、その時に「大阪にこんなエエとこやエエもんがあったんや」という声を多くの人から頂きました。
今回のEEIEの取材で、能勢の地で静かに継承されてきたものを詳しく知って、私も同じ気持ちになりました。
毎日散歩をしていても、かわいい草木や実の育つ場所をみつけたり、自然の生み出すアートともいえる樹木に魅せられたり、と発見の連続で、私も地元の能勢のことはまだまだ知らないことばかり。
能勢には何もないと決めつけ、そのことを恥ずかしく思っていた多感な時代が嘘のようです。 「能勢には魅力がたくさんあるからいいですね」と、街作りをしている知人に言われたことがありますが、今、まさにそう思います。
今回、取材に参加させて頂いたことで、「そうでしょ、そうでしょ、能勢には魅力が一杯でしょ」と誇れる気持ちが一層高まりました。
こう思えたのも、grafのみなさんとEEIEのみなさんのおかげです。
どうもありがとうございました。

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