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grafが近畿2府4県を旅して考えるきれいなくらし

10.12.22

Chapter.3 代々受け継ぐ京町家のくらしを今に伝える[秦家住宅]。

屋根の中央に取り付けられた木製の重厚な屋根看板には、家伝薬の『奇應薬』の文字が。こうした意匠は江戸時代後期に様々な業種に取り入れられ、当時の商家の趣を今に伝える。

最後に訪れたのは、下京区太子山町にある京町家[秦家住宅]。1700年創業で12代薬業を商ってきた下京の伝統的商家の京町家で、現在は市の有形文化財にも登録されている住居を一般公開するとともに、1日1組限定で料理のおもてなしをされたり、料理教室『料理の会』や茶会、講座を開催されたりなど、様々な活動をされています。

ジョイさんは2、3年ほど前から妹さんと[秦家住宅]の『料理の会』に通っており、今回は見学も兼ねて、全員で『料理の会』に参加することに。ここで生活されていて、この会を主宰している秦めぐみさんにご案内して頂きました。秦さんは『京の町家おりおりの季節ごはん』というお家に伝わる家庭料理のレシピ本も出版されています。

「こんにちは、秦さん。ご無沙汰しています。今日は取材にご協力頂いてありがとうございます」

秦さん「こんにちは、香織さん。どうしましょう、大勢でお越しいただいてびっくりしました。まず家をご案内しましょうか」 と、早速、この京町家の造りを説明して頂きながら案内して頂きました。

秦さん「この辺は染め屋さんが多いんですが、ここは薬屋。江戸中期元禄から、『竒應丸』という小児薬を製造してきた商家です。建物は、江戸末期1864年の元治の戦いでおきた戦火により、焼失しています。そして5年後の明治2年(1869年)より、店舗である表棟から順次再建。築およそ140年の"表屋造り形式"の京町家です」

「"表屋造り形式"は商家独特の造りですか?」

秦さん「そうですね、店舗棟が独立して建ち、生活をする住居棟はその後ろにあります。"表屋造り形式"とは、店舗棟、住居棟、土蔵を2つの庭が繋ぐ大店タイプの町家のことを言います。住居棟は総2階建てですが、店舗棟は厨子2階の部分が正面から見ると土壁で塗り込められた虫籠窓になっているのが江戸後期の町家の形。そして階下は平格子と出格子、という建築様式がデザインとして残っていると言われています」

当時の家の建て方は統一されていて、秦家のように南北の通に面して建っている家は間口の広さにかかわらず全部入り口のある土間の位置は南、と決まっています。これは今の住居と大きく違うところ。そしておもしろいのが、京の街のコミュニティのあり方。京都は道と道を隔てて例えば南北の通りを東西に遮断している通りが北と南にありますが、その遮断している道までの両向かいが1つのコミュニティを作っています。つまり裏側はよその区域になります。

  • 秦家住宅の構造図。奥に長い伝統的な京町家で、玄関からお店、客間、家人の生活の場と別れています。
  • 「店の間」の平格子からは、家の中にいながら表の様子がよく分かる。でも表からは中が伺い知れない。都市住民としてしたたかに生きてきた京都人の生きる知恵の1つ。

こうしたコミュニティーを『お町内』と呼んでいますが、これらが複数集まってひとつの学区を形成しているんです。お祭りや地蔵盆なんか、とても盛んなんですよ。

秦さん「表屋造りになると、店舗棟と住居棟の間に玄関棟が現れます。そこに小さな庭"中庭"がありますが、この庭の植栽は主に棕櫚竹(シュロチク)です。玄関棟から前は堅牢で骨太ながっしりとした造り、座敷はフォーマルに、というのがこういう家の意匠でしょうか。さらに奥へ進むと、数奇屋の好みが色濃くなってきますしね。特にこの家は薬屋ですから簡素で、華美なデザインはあまり見られません。同じ形式の町家で建物の配置などは構成はほぼ同じでも、業種によって、その家の中の個性はずいぶん違います」

「なるほど。前は男性的で後ろは女性的。店を守る者が男で、主に家で生活するのが女性だから自然とそうなったんでしょうか。おもしろいですね」

秦さん「それはそういうことではなくて、当主の意向が強く反映された結果なんです。茶室などを設けた奥深く静かな和みの空間は客をもてなす大切なサロン的役割も果たしていたんですね。そしてこの玄関棟、"玄関"と名前が付いているのに、通常はほとんどここから出入りすることはありません。家族は玄関ニワに掛けられた内暖簾をくぐって、家に入ります。花と小屏風が置かれ、常にしつらいを整えておく玄関は、来訪者と家の当主が出入りするところ。唯一ハレの日には家族が玄関に新しい履き物を置いてくれ、ここから出かけることもあります」

  • 帳場・作業場の出格子の両サイドは曇りガラスではなく、透明のガラスで表の様子が分かるようになっている。
  • 薬箪笥の前の重厚な置き看板。家伝薬の『奇應丸(きおうがん)』は小児薬として重宝された妙薬で、中国や東南アジアの国々から輸入された希少な薬だったそうです。

秦さん「私が物心ついた頃からずっとこの状態です。ここに家族の靴が脱いであることは考えられません。言わば会社のロビー。自分の家でありながら、半分そうでない部分とが共存しているのが、こういう商家の使い分けであり、はっきりしているところかなと思います」

「玄関という言葉の意味が違うんですね、現代の住居と」

「思わず自分の家の玄関を思い出してしまった...(笑)」

「オク」とも呼ばれる住居棟にある座敷は家の中で最も厳粛な場。表の喧噪を感じさせない静かな空間で、意識は自然と奥庭の方へいきます。普段家族がここを使うことはなく、当主同士か、商売上のお得意様、つまり対等か立場が上の方だとこの座敷に通される。

秦さん「お迎えする相手や用件によって応対を使い分けできるように家の造りができています」

「なんだか、全てにおいて決まりがあるような感じがします」

「いろんな意味で徹底しているんですね。僕らが今日からこのくらしをしなさい、と言われると困惑するけれど、秦さんにとっては当たり前の日常。これを伝え残していくことは容易ではないけれど、とても重要なことだと思います」

秦さん「おっしゃる通りです。私たちの日常とこの家を公開してどのように生かすのかは、難しいことですね。

  • 玄関から奥に入ったところにある、四畳半の釣床を備えた客間の「茶の間」。障子の向こうは、風の通り道と自然光を取り込むために配された一間半四方の中庭。
  • 前方のキリシタン灯籠を取り込んだ堀蹲と後方の築山との高低差は、視覚的に遠近感を感じさせます。限られた面積の中で庭の景色を立体的に見せる工夫です。

京町家のくらしを知って頂くという必要性、どういう形で公開の趣旨をお伝えするかということ。まだまだ、その答えは見つかりません。ただ、この家が喜んでくれる活用のあり方は何なのかという点だけは慎重に配慮していきたいと思っています」

伝統的な"表屋造り形式"の京町家の建物とそのくらしをご案内頂いた後は、秦さんのご指導で京都の家庭料理の作り方を教えて頂きます。こちらの"だいどこ"(=台所)をお借りしてみんなで手分けして調理。この日のメニューは「かしわのすっぽん鍋」と「ほうれん草と春菊の白和え」。すっぽんの鍋ではなく、すっぽん鍋の要領で事前に鶏肉を大量の酒で酒入りすることから『すっぽん鍋』と秦さんは名付けました。最初に鶏ガラスープから作ります。鶏肉は骨からスープが出るので骨付きがおすすめです。鍋の最後に雑炊をしたりうどんをいれてもおいしいんだそう。

白和えは、秦さん曰く「家庭料理の定番だけど、丁寧にするととてもおいしい献立です」。豆腐と野菜の水気をしっかりきるのがポイントの1つ。今回の料理でだし汁を使うのは少しですが、鰹節はパックのものではなく、使う分だけちゃんと削ります。だしの香りが全然違うそう。

野菜を切る人、鶏でスープを作る人、カツオを削る人、とみんなで手分けして作ります。人数が多いので、かなり広い台所も狭く感じるほど。

  • 奥庭のキリシタン灯籠を取り込んだ堀蹲(ほりつくばい)には水琴窟(すいきんくつ)が仕込まれています。
  • 座敷から延びる渡り廊下は、奥庭を取り囲むように離れて、奥の土蔵と離れに続いています。

秦さんの家庭料理の考え方の1つが、分量をきっちり限定しない、ということ。その時の体調によっても違うし、人によって好みもあるし、辛いのが欲しい時もあるので、作りながら調整していきます。今回の白和えも、「豆腐はもっちりした食感が好みならゆるめに絞る。だし汁を加えると口当たりのやわらかいまろやかな味に仕上がるので、一手間を惜しまないで」とのアドバイスが。

そうして2時間足らずで料理は完成。

みんなで座敷でいただきました。

「スープが抜群にウマい!」
「鶏もやわらかくておいしいです」
「いつもの白和えと全然違う」

秦家の広い座敷で、1つの鍋を大勢でつついていると、まるで親戚が集ったような、どこか懐かしい気分になっていました。家のあり方、丁寧なくらしの大切さをしみじみと感じた京都訪問の締めにふさわしい夕飯でした。

  • みんなで「かしわのすっぽん鍋」の仕込みです。骨付きの鶏ガラで鍋のスープを取ります。
  • これが「かしわのすっぽん鍋」。すっぽんの鍋ではなく、かしわを事前に大量の酒で酒入りさせてから煮込む鍋料理です。

秦家住宅

京都市下京区油小路仏光寺下ル太子山町594
TEL/075-351-2565
見学は9:30~16:30 見学料 大人1,000円(※前日までに要予約)

料理「秦家」
昼12:00~15:00 1人5,000円、夜18:00~21:00 1人8,000円~
(※いずれも4、5日前までに要予約)
秦家「料理の会」2名から最大5名まで 参加費3,000円(※ひと月前までに要予約)

[秦家]の女主人・秦めぐみさん(左から3番目)を挟んで。京町家の伝統を今に受け継ぎつつくらしていらっしゃいます。

取材・文/天見真理子




grafからのメッセージ


『伝統とは革新の連続である』とは京都でも耳にする言葉ですが、今回訪ねた3軒はどこもその言葉を実践していると感じました。お話をお聞きしたのは、たまたま皆さん女性。平間さん、横山さん、秦さん、いずれも魅力溢れる女性でした。そして、京都にくらす女性たちの創る空間はとても素敵で、まるで遠く海外に来たような感覚にさせてくれました。

[フローイング カラスマ]はgrafが手掛けた物件でもあり、京都市内では昔からランドマークとして知られていた名建物を、その良さを残しつつ、(オーナーの意向で)改装してダイニングとして運営されていらっしゃる場所。もしテナント貸しされていたら、現在のような佇まいを残すことができていなかったのかもしれません。

「残すものと変えていくもの。これはオーナー企業だからできる決断。近年、京都市内で古き良き建築がなくなりつつあることが非常に残念だったので、[フローイング カラスマ]の存在はとても素晴らしいと思います」

「平間さんのお店づくりに対する想いや行動力を改めて感じました。彼女が[フローイング カラスマ]にいる限り、この街の憩いの場所として、一層発展することは間違いないと思いました。そんな平間さんを見ていると、私たちもgrafを良くしていくためにできることがまだまだたくさんあるはずだと思いました」

次に訪れた[好日居]では、元は建築家だったという横山さんの街やくらしに対する想いが建物や内装に表れていて、その空間で頂くお茶は格別。

「こちらもまた建物との運命的な出合いによって、自らリノベーションされたお店。良いところは残しつつ、建物に新たな命を吹き込まれていて、お話をお聞きして感銘を受けました」

「お茶を淹れるためのお水も汲みに出掛けて、お客様をおもてなしするためにきちんと掃除し、お花を飾り、お茶を選び、想いを込めてお茶を淹れる姿を拝見して、丁寧に暮らすことの大切さを感じました」

「がむしゃらに働くばかりではいけないな、と...。身も心も健康でいられるよう、私もお茶のある生活をしていきたいと思いました」

最後に訪れた、京町家の[秦家住宅]。江戸時代に建てられた京町家で、お屋敷の構造やしきたり、くらし方などについてお話をお聞きして、伝統や格式についてもいろいろと考えさせられました。今までにない京都を体験できました。

「京町家の間取りに決まりがあることを初めて知りました。表と裏、見えるところと見えない(見せない)部分、が存在するんですね」

「伝統的な京町家とそのくらしを残し、守り継ぐために、ご自身で色々な企画をされている秦さん。町家という器は昔のままでも、そこから新たにいろんな事を発信されていらっしゃるという点では、古いものをただ残すのでは無く、変えていくべきものは変えていくということを実践されているんだなと感じました」

「料理では、カツオ節を削る道具が懐かしかったです。包丁やざる、手ぬぐいなど日本製の良い道具はまだまだあると思います。秦さんにそんな道具の扱い方なども教わってみたいです」

「白和えが本当においしくて感動したので、ケータリングのメニューにも加えてみました。また時間をつくってお料理を習いたいと思います」

「特に関西の料理文化(=ダシ文化)のルーツを、本場である京都の方から習う事が出来て、良い経験になりました」

今回の訪問先は、どちらも古い建物でありながら、そこに関わりくらしていらっしゃる女性が、それぞれに新しい考え方を取り入れて、発信されていました。仕事とくらしが密着したところから、羨ましいほどの生き甲斐を持ってくらしていらっしゃる3人の女性。共通点はたくさんありました。

それぞれ歴史と伝統のある建物と接点を持ちつつ、建物に寄りそうように、それを今に活かそうとしている、そんな底知れない生きるパワーを感じました。建物が歴史や伝統の前に押しつぶされることなく、現代に蘇生し、静かに自然に呼吸ができている...。そして、そんな建物の静かな力を感じ取れる人々に、じっと訴えかけている...。それも彼女らの尽力によるもの。

彼女たちのお話をお聞きして、街と建物とそして彼女たち自身のパワーを受け止め、京都の素晴らしさを改めて感じた取材でした。唯一無二の素晴らしい癒し空間を、平間さん、横山さん、秦さんにこれからも守り続けてほしいと切に願います。

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