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grafが近畿2府4県を旅して考えるきれいなくらし

10.12.22

Chapter.2 人を迎え、もてなすことの大切さ。左京区の隠れ家サロン[好日居]。

[フローイング カラスマ]でランチを頂いた後は、grafの川西万里さんの中国茶のお仲間でもある横山晴美さんが営む、お茶のサロン兼ギャラリー[好日居(こうじつきょ)]へ。左京区の岡崎周辺は平安神宮を始め、京都市立美術館、京都国立近代美術館などもある人気の観光スポット。そんな人通りも多い場所ですが、ひとつ道を入れば意外とひっそりしており、静かな居住区があります。[好日居]は、まさにその住宅街の中にある古民家。初めて伺う人にはちょっと分かりにくいかもしれません。

「こんにちは、晴美さん。お久しぶりです」

横山さん「万里さん、お元気でしたか? 今日はありがとうございます。どうぞお上がりください」

玄関から靴を脱いであがると、早速、横山さんがウエルカムティーで迎えてくれました。ピンク色がきれいなりんごのお茶です。ほんのり甘みがあり、ジュースのよう。奥の大きなテーブルにはすでにお茶の用意がされていました。そのテーブルが置かれた部屋の奥には、横山さんお気に入りの栃木県の軽石凝灰岩の一種、大谷石を床に敷いた小部屋があり、その空間越しに中庭が見えます。 横山さんはこの店を始めるまでは建築設計の仕事に携わり、30年以上空き家だったというこの古民家のリノベーションも自ら手掛けたそうです。この家とは「たまたま出会った」とのことですが、いきさつを伺うとどこか運命的。中国茶を頂きながら、家のお話を伺いました。

  • 岡崎の表通りから1つ路地を入ったところにある[好日居]の表玄関。一見、普通の古民家のようで、気を付けて歩かないと通りすぎてしまうかも。
  • ウェルカムティーとして淹れて頂いた、ピンク色がきれいな「りんごのお茶」。ほんのり甘くて美味しかったです。

横山さん「岩茶は、烏龍茶の中でも最高峰、福建省の武威山で作られています。奇岩のミネラル分が味となったお茶で、岩茶の中でも『大紅袍(だいこうほう)』というお茶は、昔、皇帝専用のお茶で、その茶樹の原木は世界遺産に登録されてるんですよ。今から淹れる岩茶は『不見天(ふけんてん)』という銘柄で、天の見えない様な深い谷底にその茶樹があったことからその名が付けられたと言われています。朝一筋の光が当ることでおいしさが増すのだとか、とても調和のとれた優しい味です。隠れ家のような場所にある[好日居]は不見天みたいにありたいな...なんて思いながら淹れますね」

沸騰したお湯を高い位置から注ぎ、手際よく全員のお茶をいれる横山さんの美しい所作に見とれながら、横山さんとこの家との出合いの話題に。

「もともと京都のご出身ではないんですよね?」

横山さん「出身は愛知です。学生時代に京都へ来て、東に西にと仕事をしていましたが、気が付けばまた京都に戻っていました」

「お店をはじめたきっかけは?」

横山さん「2006年に海外の旅から帰国した日、仕事はお休みで時間があったこともあり、たまたまこの建物に出合ったんです。建築の仕事をしていた事もあって、この建物の改修を半分は自力ですることになります。そして改修も終わり、何かすることになり、ただ好きだったお茶を飲んでもらおうと...、つまり茶房を始めたのです。

  • [好日居]のキッチンスペース。様々な茶器が整然と並べられていて、横山さんのお人柄やくらしが窺えるキッチンです
  • 客間の奥の部屋の床には、栃木県の軽石凝灰石、大谷石が敷き込まれています。横山さんのお気に入りの石で、現地で切り出したものを宅配便でここまで送ったそうです。

お店を始めて後、2009年の事、[好日居]を挟んで両隣の方々が、2006年の[好日居]と出会うきっかけとなった旅の時に同じ飛行機に同乗していた事実が分かってびっくりしました。私がなぜこの建物を改修して、なぜ[好日居]を営んでいるのか...、その時わかった気がしました。この家に呼ばれちゃったかな...って」

「そんな偶然があるんですね」

横山さん「30年以上も空家だったこの家はかなり朽ちていました。多くの人が改修を試みようとしたらしいのですが、皆諦めたそうです。建築を仕事にしていた私が飛行機の中で呼ばれた...のも運命だと思わずにはいられません」

「そのお隣さんを通して、この家に呼ばれたんですね」

『聞香杯』と呼ばれる細長い器にそれぞれお茶が淹れられ、個々で茶杯にお茶を移し替え、まずは聞香杯に残ったお茶の香りを楽しみます。その後に茶杯のお茶を頂きます。

「良い香りですね」

横山さん「温度が下がると、香りも変化します。杯に残る香は中国茶の楽しみの1つですね。水によっても茶味は変わりますし、超軟水の京の水には慣れるまで淹れ方をずいぶん工夫しました」

そしてまた茶杯と聞香杯を戻して2煎目を頂きます。

  • まずは『聞香杯』という細長い器にお茶を淹れ、それを茶杯に移し替えます。聞香杯はお茶の残り香を楽しむのに使われます。
  • ゆったりと、かつ手際よくお茶を淹れてくれる横山さんの所作に思わず見とれてしまいました。高い位置から急須に沸騰したお湯を注ぎます。

「この家は何様式とかあるんですか? ちょっと洋風な感じですけど」

横山さん「大正末期に流行った洋のスタイルを取り入れた住宅になります。その洋室ですが、改修前は竿縁天井、畳、床の間、押入、襖と洋スタイルの窓以外は和の空間だったんです。傷みの激しかった[好日居]の改修工事はかなり大がかりで工務店さんも入って頂いていますが、玄関のたたきや壁塗り柿渋ベンガラ塗り等々たくさんの友人の手を借りて改修し、1年半かけてオープンに至りました」

「今までEEIEの取材でお訪ねした、古い建物を自分で建て直した方々の中では早い方かも(笑)。滋賀の[マンマミーア]の川端さん伊賀の画家の高田さん、それに姫路の[米ギャラリー大手前]の岡田さんとか、もっと長い間掛かっていましたね、確か」

横山さん「[好日居]の場合、開店の日を決めて、オープニングのイベントとして近所の友人のギャラリーと一緒に、当時97歳だった祖母 、ひさのちゃんの作るキュートなQP展を決めていました。何が何でもその日に開店させるべく、急ピッチで工事を進めたお陰でなんとか開店できたかな。お店を始めるとか大きな節目っていうのはググッと見えない力が働きますよね。始まるべくしていろいろなモノが集まったり動いたり...。事もモノも人も...、そんな感じでした」

「分かります、イベントもそうですもん」

横山さん「この建物の改修をはじめとして"繕う"ことに関わる事が多いな...と思っています。

  • この日のお茶請けは、横山さんのお父様が毎年秋に山で取ってくるという天然の山栗で作った栗きんとん。ウイグル自治区トルファンの殻付きアーモンド、他にカボチャの種、松の実など。
  • 最後の一煎はgrafの川西万里さんが淹れてくれました。「なんか人に淹れてもらうのって新鮮」と横山さん。万里さんとはお茶の先生が同じで知り合った仲だそうです。

[好日居]では毎月『金継ぎ同好会』をしたり、"繕いモノ展"として器がとっても貴重だった頃の様々な手法で繕われた器を集めた展示もしました」

「そういえば前回の取材で訪ねた淡路の陶芸家、前田さんも金継ぎのことを話していらっしゃいましたね。器を修繕するという文化は日本独特だと」

横山さん「欧米では元通りの姿に直す事を良しとする様ですね。それに対して日本は繕ったものを愛でる文化がありますね。美しく繕われた器って、本当に愛おしいというか、大切にされてるコトや歴史や想いまで感じられてなんだかいいですよね。最初、この建物のことは気に入っていたわけではなかったのですが、洋室の窓ガラスの健気に繕われた跡を見るにつけ、昔この家が大切に住み継がれていたコトを確信すると改修に踏み切れた...、そんな気がします。[好日居]に関しては、あえてデザインするっていうよりも、なんだか前からあったような、そんなニュアンスで改修しました」

「[好日居]という店名は?」

オープニングイベントとして行った横山さんの祖母のひさのさんの作ったキューピー人形を集めた『キュートなQP展』のポストカード。可愛い!

横山さん「『日日是好日』という禅語の言葉から頂きました。かけがえのない時を過ごされたお客様が少しでも『好い1日だったなぁ』という気持ちになってもらえたらいいなと思って。建築やデザインの仕事って、徹夜で仕事をすることが多いのですが、振り返ってみるといつもお茶に癒されてきてるんです。お茶の時間があったからリセットできて再びがんばれた、その繰り返しでした。私が今までお茶にしてもらってきたことを、此処、[好日居]でできたらいいなと思ってやっています」

「寝ずに働いていたね、ジョイも」
「そうなんです。私も建築の仕事をやっているんですが、grafで働いていた時もたいへんやったなぁ、って今思い出していました。でも私も万里ちゃんの淹れるお茶に助けてもらったり、grafにはカフェもあったので、普通の建築事務所よりはすごく息抜きできる環境に恵まれていたと思います」

横山さん「私1人で切盛りしている[好日居]の場合、時間はいくらあっても足りませんが、睡眠不足では毎日変わらずに門を開けて美味しいお茶を淹れる事はできなくなりそうです。今は無理し過ぎない様に気を付けています。偶然にも建物に出合って改修して茶房を開く...、そんな流れの延長でこれからも新しい出会いを受け入れたり影響を受けながら、[好日居]の行く先を楽しみに守っていく感じでしょうか」

「そういう方が今の時代らしいというか、いいですね」

横山さんに繕われて、店として息を吹き返したこの建物は、今では人を迎え、もてなし、横山さんと一緒に新しい人生を再スタートしたような印象。まさに"好日"を実感できたような、ほっこりした空気感とおいしいお茶に癒されたひと時でした。

好日居

京都市左京区岡崎円勝寺町91
TEL/075-761-5511
営業時間/13:00〜18:00
月・火曜休み(イベント時臨時休業の場合あり)
http://kojitsu-kyo.cocolog-nifty.com

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