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grafが近畿2府4県を旅して考えるきれいなくらし

10.09.08

Chapter.3 姫路の風土を愛しつつ、食のカタチにこだわるお米屋さんとラーメン屋さん

姫路市の北西に伊勢という小さな集落があります。伊勢山ののどかな山里の風景が広がるその村では、法善寺という小さなお寺で1年に1度「伊勢のお寺市」という催しが行われ、年々来場者が増えています。池島さんは今年、この市のリーフレットのデザインを担当しました。

その法善寺がある上伊勢にある[米ギャラリー大手前]は、築140年の古民家を改築したギャラリー兼食事処。池島さんは店主の岡田源太郎さんとオープン以来のお知り合いだそうです。メインはお米の販売ですが、ほかにご飯のお供の食品やお茶、作家ものの器や箸、骨董品、季節を彩る山野草、草木染めなどの洋服...など、広い敷地内には様々なコーナーが。調度品や家具は、木を基調にコーディネイトされていて、奇をてらったデザインや設えはなく、どこか懐かしさが感じられる癒される空間です。

しかし、これがまさかほぼ岡田さんがほぼ1人で改装した手作業とは! ぽつり、ぽつりと話始めた岡田さんの話に全員が聞き入ってしまいました。

池島さん「もともと源太郎さんは、実家がお米屋さんだったんですよね」

岡田さん「そうなんです。でも大学卒業して会社員していて、継ぐ気もありませんでした。30歳になって子供ができて、食に対する疑問を感じるようになって...。うちの奥さんが食育に興味があって講演会なんかによく行っていたこともあって、子供のアトピーとかぜんそくとか、精神的な幼さとか、全ての原因は食にも繋がるんじゃないかと...。実家がお米屋さんやったから、日本人が本来食べていたお米の良さをもっとアピールすることで、いろんな弊害が良くなるための活動ができるんじゃないか、と思いまして」

「で、実家を継ごうと?」

岡田さん「でも親父から『スーパーでもお米が買えるようになったこのご時世、帰って来てもすることがないぞ』と言われまして...。じゃあお米だけじゃなく、新しい販売の仕方を考えたらなんとかできるんじゃないかと...」

それから約2年間、場所探しに費やしたそうです。駅前なども考えたそうですが、家賃の高さもあり、姫路の郊外へ。そして出合ったのが現在の場所。20年の間空き家のままだった、築140年になろうかという廃屋。周りの土壁も外れている状態でした。

岡田さん「でも下から伊勢山を上がってきた時に雰囲気がパッと開ける感じがしたので、業者さんに直してもらったら、という軽い気持ちで購入してしまいまして...」

ここから話をお聞きするだけでも気の遠くなるような、長~い改装期間が始まります。見積もってもらったものの、屋根の修復だけで大幅な予算オーバー。そんな時、たまたま飲み会で隣になった人のご縁で紹介してもらった瓦屋さんに相談に行くと、「自分で瓦を葺いてみんか」といわれ、最初は笑っていたものの、なぜかその場の勢いで発注。そうして岐阜県から届いた3000枚の美濃瓦を、岡田さんたった1人で2カ月がかりで葺き替えました。

「誰かに教えてもらったんですか? 瓦の葺き方は」

岡田さん「いえ、その相談した瓦屋さんも実は自分では葺いたことはなくて、たまたま姫路の図書館で『瓦大全集』っていう本を見つけて(笑)。それに全部載ってたんです。今まで日曜大工もしたことがなかったんですが、実際にできあがってみたら、自分でもなんか上手にできたなと思いました。それで心に火が付いて、予算のこともあるし、できることは全部自分でやってみようと」

プロも使う地元のホームセンターに通って、家の改修に必要ないろんな材料を購入し、見よう見まねで壁も床も張り替えました。そのホームセンターには水道や電気の配線まで売っていたので、店の人に聞きながら、全部自分で取り付けて。

岡田さん「結局2年かけて改築したんですが、作業が辛いというよりも、生活が辛くなって...。貯金を切り崩しながらの極貧生活もいよいよやばくなってきたので、オープンを5月と決めて準備を進めました」

現在販売しているお米は、ブレンド、無農薬、南魚沼産コシヒカリの3種類。業務用にはもう少し種類があり、岡田さんのお父様が配達もしています。もともと炊きたてのご飯を試食してもらうために始めたランチが大人気。料理は岡田さんのお母様が担当です。炊きたてのご飯をおひつに入れて、おかずは2段のお重に入れられます。お昼の予約はご飯が炊きあがる12時に入店出来る方のみ、と制約はありますが、それでも口コミで人気は広がり、一時期は2カ月先まで予約が埋まることも...。

「お米は何で炊くんですか?」

岡田さん「今は業務用のガス炊飯器の内釜を直火で炊いています。土鍋と同じ炊き方ですね。始めチョロチョロ...、ではなくガッと沸騰させといて弱火に落として12~3分。温度や湿度によって変わるので微妙に難しいんですが。オープニングの時は業務用のガス炊飯器で炊いていたんですが、これが身内にかなり不評で。自分ではおいしいと思っていたので、焦って夜も寝ないで美味しい炊き方を研究しました。それでいろいろやり方をミックスしながら辿り着いたのが、今の炊き方です。手前味噌ですが、やはり自分の手で炊いた方がピカーッと光ります。ご飯の良し悪しは味だけじゃなくて、においと見た目、それに最初に釜を開けた時のホワ~ンと湯気が立つ何とも言えないおいしそうな感じ、それらを合わせたもので決まると思います」

「わ~。食べてみたかった!」

岡田さん「すいません、お昼の予約が埋まっていたもので」

「また絶対予約して来ます!」

  • 姫路市の北西、上伊勢の山里にある[米ギャラリー大手前]。築140年の古民家を、岡田さんがほぼ1人で改修した建物。
  • 前にはこんなツリーハウスが。源太郎さんのお父さんがお孫さんたちのために手作りで建てたそうです。
  • 販売されているお米は、たじま産コシヒカリ、南魚沼産コシヒカリ、大手米の3種。
  • お米の他にも様々な郷土品や食品、食器や調度品などが売られています。
  • 柱や床の木、壁、岡田さんが買い付けてきた調度品の数々。何だか懐かしさを感じさせる、癒しの空間です。
  • 築140年の古民家を岡田さんがほぼ1人で改修した家屋は、奇をてらったデザインなどはなく、落ち着いて心を安らがせてくれます。
  • 玄関の横に立てかけられた黒板からは、岡田さんのお客さんに対する心遣いが感じられます。
  • この開放的なテラスも、岡田さんが1人で作り上げたもの。並べられた盆栽なども見事に空間に溶け込んでいます。
  • 中庭に並べられた調度品や民芸品、草木染めや家具など。様々に集められたものがまた、この空間を演出しています。
  • お昼のおかずはこの2段のお重に入れて供せられます。このお重も、岡田さんが見つけてきた一品。

外では岡田さんの子どもさんがツリーハウスのブランコで元気に遊んでいました。聞けば、岡田さんがたった1人でせっせと家の改築をしていた2年の間、奥さんはそっと見守りながら子どもさんたちと畑仕事などをして、くらしを支えていたそうです。子どもの食がきっかけで、生活そのものを大きく変えることになったという岡田さんの選択。時間は掛かりましたが、その答えは元気な子どもさんの健やかな成長と笑顔を見れば一目瞭然です。

米ギャラリー大手前

姫路市林田町上伊勢338
TEL/079-261-4612
営業時間/10:00~17:00
(ランチ1,500円は要予約、12:00には要来店)
日・祝休み

岡田さんのご家族と一緒に。奥さまやお子さんたちの笑顔が、岡田さんの今のくらしの快適さを物語っています。

最後に訪れたのは、池島さんイチオシのラーメン屋さん[一徹らーめん]。
こちらのご主人の黒木隆信さんは、店から歩いて5分のところにある畑で、ラーメンに使う野菜をすべて完全無農薬で自家栽培されてます。化学肥料も一切入れず、無農薬・無耕起・無消毒の自然栽培です。他にも、店で使う水は氷ノ山系の湧き水を毎週汲みに行ったり、宮内庁御用達で知られる天日干しの煮干しを使用したりと、様々なこだわりが。

池島さん「いくつかおすすめの理由はあるんですが、まずは野菜」

「野菜とラーメンってあまり結びつかないなぁ」

池島さん「でしょ、でもここのはすごいですよ。プロの料理人も野菜だけ欲しがるほど。土から作っているから味が濃い上に、昼に出す野菜は朝採り、夜に出すのは夕方採り、と鮮度も抜群」

黒木さん「ではまず『極上一徹らーめん』からどうぞ。これは豚骨、地鶏、魚系、野菜の4つのスープをブレンドしています」

「うわ、何だろこのまろやかさ」
「ブレンドならではのコク? おいしい」

続いて自家農園の野菜がたっぷりトッピングされた野菜ラーメンの登場。季節によって野菜は変わりますが、この日はキュウリ、タマネギ、キャベツ、ゴーヤ、カボチャ、ニンジン、フルーツトマト...と、野菜で麺が見えません! 

「すごい迫力ですね」
「これ、女性絶対うれしいよね」

黒木さん「これは上は新鮮生野菜で真ん中に麺、麺は平打ちの太麺です。うちは7種類の麺をラーメンによって使い分けているので、細麺や卵麺など好きな麺を選んでもらうこともできます」

「シャキシャキの野菜の歯ごたえもいいし、1つ1つの野菜の味が主張してる」
「ラーメンにパセリって美味いですね」
「そしてスープ、よりまろやかに感じる」

黒木さん「一徹のスープ+野菜のうまみが全部入っているのでまろやかになっています」

最後に塩ラーメン。このラーメンのために、黒木さんは2009年の夏、ご夫婦で3カ月の間、全国のラーメン店を食べ廻る旅に出たそうです。その目的は、全国の老舗のラーメン店や有名店を食べ歩きながら味を研究するのと、塩や鶏、卵など納得がいく食材を発掘するため。その旅で出合った食材は、日本三大地鶏の1つである比内地鶏、そして自然に近い放し飼いで通常の養鶏の2倍の期間を掛けて育てられる青森のシャモロックなど。出てきた塩ラーメンのスープは透き通って輝いていて、プリプリの地鶏が乗っています。塩ラーメンは細麺と全粒粉麺と卵麺の3種類を食べ比べさせてもらいました。

池島さん「これはラーメンと思わん方がいいと思います。まさに命のスープ。」

黒木さん「全国をいろいろ食べ歩いて1番旨かった鶏を2羽選びました。各ブロックの比内地鶏の身が入っています。皮まで比内地鶏です。鶏は30軒以上は廻りましたが、餌を重点的にチェックしました。何を食べているかが一番大事。」

「きれいなスープ!」
「すごく優しい味ですね」
「どうしてラーメン屋さんをやろうと思ったのですか?」

黒木さん「それまではいろんな業態の店をやっていたんですが、ラーメンは全部表現できるじゃないですか。とりあえずいいものを出したい、安くても美味いものがあるんや、ということを野菜なら表現しやすい。でも農薬のスープにしたくないから、野菜は自分で作ることにしたんです。それにラーメンやったら子どもからお年寄りまで、学生からファミリーまでみんな好きでしょ。化学調味料派の人はうちのスープには合えへんけど、自然食の人はぴったり合うはず。何より安心して食べられるおいしいものを提供したいという気持ちやね」

池島さん「あとは弟子を作らないとですね」

黒木さん「畑仕事がたいへんやから、野菜を作れる人をスカウトして、料理を教えるようにしようかと。料理するところから入って畑仕事までとなると、こんなはずじゃなかったって続けへんから(笑)。池島君、誰かいい子がいたら紹介してや」

池島さん「はい!」

  • [一徹らーめん]の店構えからも、黒木さんのラーメンに対する気構えとこだわりが感じられます。
  • お店の近くにある畑で黒木さんご夫妻が自家栽培で育てた、朝採り野菜のサラダ。新鮮です!
  • 極上一徹らーめん(850円)。豚骨、地鶏、魚系、野菜の4つをブレンドしたコクのあるスープが絶品。
  • 自家栽培の朝採り野菜がたっぷりトッピングされた野菜ラーメン(1,100円)。野菜で麺が見えません!
  • 透き通るようなスープの塩ラーメン(950円)。ご夫妻で全国を食べ歩いた末に作り上げた、渾身の一品です。
  • 黒木さんご夫妻と池島さん。黒木さんのラーメンと野菜にかける熱意と根気を受け継ぐ後継者が早く見つかることを願います!

ラーメン一筋ではなく、行きついた料理がラーメンであり、野菜だったというご主人。
「お客さんにウソをつきたくないから、野菜が無くなったら終わり!」という真っ直ぐで澄んだ心がスープにも現れていたようでした。
お腹もいっぱいになって、帰路に。
いつもはラーメンでお腹いっぱいになったらどこか食べ過ぎた罪悪感があるはずなのに、たっぷりの無農薬野菜のおかげで身体にいいことをした気分。そんな+αを感じられるラーメンでした。

一徹らーめん

兵庫県姫路市北平野1-8-11
TEL/079-282-0208
営業時間/11:30~14:00、17:30~22:00
水・木曜休(月曜日は夜のみ営業)

取材・文/天見真里子

grafからのメッセージ

今回、コーディネーター役をお願いした池島耕さんは、知り合いも多く多趣味な人なので、きっと私たちが今まで出会った事もないような方も紹介してもらえるだろうと、とても楽しみでした。

姫路や加西のある播磨地方のことは今までほとんど知りませんでしたが、こんなにこだわりを持って仕事をされている方が多いとは! そしてこだわりようも、徹底的にという印象。適当にとか、ほどほどにという感じが全くなく、どの方も話し始めると、こちらから質問しなくても熱く話して頂いて、私たちが呆然と聞き入る場面もありました。

ニンニクの『ハリマ王』の北本惠一さん。30年間、ニンニク一筋に培ってこられた農業経験はさすがの一言。ニンニクを作る自信が全面に押し出されていて、圧倒されっぱなしでした。頭の回転も速く、ニンニクのように力強く、個性的で頼もしい北本さんのキャラと技術を継承するような後継者の方がぜひ見つかって欲しいと願わずにはいれません。そして40年もの間、土作りを続けている畑を見せてもらい、私たちの畑も根気よく続けていこうと改めて決意しました。

今回伺った播磨の農家の方々は、今までに訪ねた滋賀の湖北や湖西の農家の方々とは、また違った地域性を感じました。在来種を残すための株主制度というえび芋栽培の面白いアイデアも、ニンニクの『ハリマ王』も、それぞれが自分の信じたものを作られているからか、それが自信に繋がっていて、皆さん、お話しに説得力があり、圧倒されました。

それは[水上村 川のほとりの美術館]の岩田愛子さんや革工場[大喜皮革]の大垣さんにも同じようなものを感じました。愛子さんの「作って、広報して、販売して、全部を1人でする人もいるけれど、私はみんなで役割を分担して協力してやるのが好き」というお話は、私たちgrafと同じで、愛子さんの考え方がよく理解できました。だからこそその情熱は"くどい"ほど伝えなければならない、と改めて思いました。

[米ギャラリー大手前]では、現在のお店を岡田さんがほぼ1人で改装して作り上げたというの話をされている時の、岡田さんの言葉が溢れ出す様子と楽しそうな表情が印象的でした。瓦を葺くことから火がついて、自分でできるところは徹底して自分の手で、という姿勢はなかなか真似のできないもの。奥さんの優しい雰囲気が幸せなくらしをより引き立てていて、とてもバランスのとれた素敵なご家族でした。

素材へのこだわりといえば、この日最後にお伺いした[一徹らーめん]さん。いろいろな料理の経験をして、最終的に万人が食べられるラーメンという料理にたどり着いたというお話は興味深かったです。新鮮な無農薬野菜がもりもり入った野菜ラーメン。滋味深いスープもとてもおいしかった! 湧き水を毎週汲みに行ったり、食材として使う野菜は全て自らの畑で自家栽培で賄うなど、こだわりが徹底していて、料理をする人間としては見習うべきポイントがたくさんありました。

そして池島さん。この地で腰を据えてしっかりと我が道をいく人々と繋がって、いろいろ教わりながら、播磨でのくらしを楽しんでいるんだな、と改めて知りました。彼のライフスタイルは、言わば現代版の兼業農家。自分の仕事を活かした人との繋がりを大事にしていて、とても共感できました。農業では稼げないから出稼ぎに行くのではなく、いわゆる"半農半X"的な感じで、"X"の部分が池島さんの場合はデザイナー業。これからの時代は彼のような働き方もスタンダードになるのかな、と考えさせられました。

都会から距離が離れた場所では、ある程度の力強さを持っていないと、外へ発信することは難しいのかもしれません。だからといって無理に都会に向けて情報発信することもなく、自分の場所でしっかりと物作りをしていれば、今回の私たちと同じように都会の人がわざわざ会いに行きたくなるような魅力を持つことができるのだろう、としみじみ感じました。地方での情報発信のあり方や魅力溢れるくらし方などが垣間見られて、今後の勉強になりました。

取材の後日、[米ギャラリー大手前]の岡田さんが早速、grafに足を運んでくれました。この出会いをまたgrafから発信するのが私たちの役割。grafビル1Fの[graf salon]では、北本さんにいただいたニンニク『ハリマ王』を飾り、[水上村 川のほとりの美術館]の愛子さんにいただいた冊子も読めるようにしています。『ハリマ王』は[graf salon]のマーケットでも販売させていただくことに!

とにかくお会いした方々や物、こと、その全てが深かった今回の播磨訪問。えび芋の収穫もこれからだし、今度は[米ギャラリー大手前]の炊きたてご飯も食べてみたいし、何より今回お会いした方々にまだまだお話を聞いてみたいので、近々、遠足を企画して、また播磨を訪ねたいと思います。

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