1. EEIE HOME
  2. VOICE
  3. grafが近畿2府4県を旅して考えるきれいなくらし
  4. 第17回 兵庫・播磨 地元の食文化や地場産業を守り継ぐ人々を訪ねて。
  5. Chapter.2 姫路の地場産業の製革工場と、姫路産の革100%の靴を作る靴職人さん

VOICE

grafが近畿2府4県を旅して考えるきれいなくらし

10.09.08

Chapter.2 姫路の地場産業の製革工場と、姫路産の革100%の靴を作る靴職人さん

続いて訪れたのは[水上村 川のほとりの美術館]。
ここはその名のとうり、姫路の西中島に流れる船場川のほとり、水上橋のたもとに建つ日本で初めてのフォークアート・ミュージアムです。「フォークアート」とは、直訳すると民衆の芸術。著名ではないけれど、素朴で温かみのあるアーティストの作品を、国内外を問わず紹介する小さな美術館です。版画家の岩田健三郎さんの奥様で陶芸家でもある岩田美樹さんが館長をされています。

今回お話を伺ったのは、岩田健三郎さんの娘さんである愛子さん。愛子さんは写真家として活躍する一方で、播磨地方ならではの情報や文化を、この美術館やHPを通して発信しています。池島さんとはやはり農つながりで(出会いはサトウキビ畑だったとか)、[水上村 川のほとりの美術館]は[食・地の座]という地元で食に携わっている人たちの集まりの事務局も兼ねているため、池島さんの[ひょうごの在来種保存会]とも交流があるのです。

「初めまして。今日はよろしくお願いします」

愛子さん「こちらこそ、ようこそ。姫路は初めてですか?」

「訪れたことはあるんですが、こうしてじっくりと1日まわるのは初めてです」
「美術館ではどのような作品を展示されているのですか?」

愛子さん「主にフォークアート、フォーククラフトといった、メジャーではないけれど、心温まるような作品。ちなみに今2階では、中国の農民画の展示を行っています。元々、この村ではこうしたポスターカラーで絵を描く人はいなかったのですが、自分たちのくらしを絵に残そうという指導の下、こうした画法で絵を描く文化が広がったそうです。その草分けのアーティストの奥さんの作品展で、彼女はなんと60歳を過ぎてから絵を描き始めたとか」

「わー。農民画って興味深いです」
「後でじっくり見せてもらいます」

愛子さん「ぜひご覧になって下さい。美術館にはカフェとショップもあるんですが、それらを含む全体のコンセプトとしては、物には必ずストーリーがあって、それを作ってる人がいる、そのことを伝えたい、ということなんです。ショップでは地元のものや知人、友人が作っているものだけを扱っています。食品も器などの雑貨も、原則として作り手の所に足を運んで制作の現場を見ているものだけです」

小松尾直利さんが作る小松尾靴工房の『ippo』もショップに並ぶアイテムの1つ。これはいわゆる赤ちゃんが初めて履くファーストシューズ。兵庫の伝統工芸品として姫路の白なめし革が有名ですが、白なめしに限らず播磨は製革業が古くからさかん。これは姫路産の革100%で作った姫路メイドの靴です。靴職人の小松尾さんにもお話をお聞きしました。

  • [水上村 川のほとりの美術館]。世界的にも珍しい「フォークアート」の美術館です。
  • [水上村 川のほとりの美術館]はその名のとおり、姫路の西中島を流れる船場川のほとり、水上橋のたもとに建っています。
  • 取材の時に2階で展示されていた、中国の農民画の作品。この作者は60歳を過ぎてから絵を描き始めたそうです。
  • 『去外婆家』という作品。新婚さんがお正月に嫁の実家に里帰りする風景。夫がお土産に肉や魚を担いで、子どももおめかし。お正月の庶民のくらしが描かれています。

小松尾さん「私が靴を作り始めたきっかけの1つは、革が姫路の地場産業だったからです。あまり知られていませんが、兵庫の姫路とたつの市で全国の革の70%近くを生産しています。でも私が普段作っている靴は残念ながら、100%姫路産というわけではありません。革をなめすタンナーさんの会社はたくさんあるんですが、1枚、2枚の単位ではなかなか売ってくれるところはありませんので...。でも、この『ippo』は表も裏も中底の革も、100%姫路産の革を使っているんです」

「どうしてそれが可能に?」

  • 小松尾さんが地元・播州産の革を100%使って作った『ippo』の靴。愛子さんのご子息が歩き始めるのに間に合うように作ったそうです。

小松尾さん「愛子さんが、この靴を提案してくれて。名前もデザインも考えてくれたんですが...」

愛子さん「厳密にはうちの父が姫路の革でできたらなぁ、と言い始めたんですが、その父が姫路の皮革組合の委員をしていて繋がりがあったんです。それで[大喜皮革株式会社]の大垣さんを紹介してもらって。この白いトルナットレザーは世界で初めて革でエコ認定を受けた製品で、赤ちゃんが口に入れても安心な素材。大垣さんもこの企画に共感して下さって、特別に小ロットで分けて頂けることになりました」

小松尾さん「この『ippo』は愛子さんの息子さんが生まれた2009年に発案されたもので、第1号は息子さんが歩く時期に間に合うよう、がんばりました」

「いい話ですね。実物の靴もシンプルでとてもかわいいです」

そんな小松尾さんの想いを形にすべく、それなら付属品まで地元のものを使おうという前提で、靴袋も西脇市の播州織を採用。

愛子さん「デザインを白にしたのも、真っ黒に汚れたことが元気に歩いた証になるから。この地で生まれた子供たちが、地元の人たちの想いを持って一歩を踏み出して欲しい、そして将来どこへ行ったとしても、いつかこの地元のことをふと振り返るようになってくれたら、という想いでこの靴は生まれました」

企画は愛子さん、作るのは小松尾さん。言うならば、2人のコラボレーションから生まれたこの靴は、今も"分業"で販売されています。注文や受け渡しの作業はこの[水上村 川のほとりの美術館]、そして革の仕入れから制作は小松尾さん1人で。つまり小松尾靴工房が販売しているのではありません。それにはちゃんと愛子さんの考えがあります。

愛子さん「こうやって分業することは、共有していくことや合作と私は思っていて、革を作るのは大垣さん、靴を作るのは小松尾さん、そしてそれを文化として発信していく、くらしの中の楽しさを発信していくのが私の役割。彼女は職人ですからそれを守っていくのも我々の役割です。美術館では『靴の相談日』という日をだいたい月に1回設けていて、小松尾さんに来てもらって、メンテナンスや新しい靴の相談にのってもらっています。小松尾さんに会ってもらいたい、という目的でもあります。街発信というキーワードをもとに、グルグルとさらにいろんな所と繋がっていく、という状況です」

「その発想、すごくよく分かります。grafは"くらし"をキーワードに、企画する人がいて、料理する人がいて、家具を作る人がいて、いろんなくらしのシーンにまつわる提案をみんなでしています。もともと職種が異なる6人でスタートして、愛子さんが言う分業やけど合作、というのと似ていると思います」

愛子さん「わ、うれしいです。ぜひgrafにも行ってみたいです」

「最後に一言いいですか、愛子さん良い感じで"くどい"ですよね。そのくどさ、最高です。最近そういう方となかなか出会えないので僕らもうれしいです」

愛子さん「あ、ばれました?(笑)。そう言って頂いて、私もうれしいです」

兵庫の西端の播磨に、また響き合える仲間をまた発見。この日の出会いもまた、何かしら繋がっていきそうな予感です。

水上村 川のほとりの美術館

姫路市西中島416-9
TEL/079-285-3770
開館時間/10:00~17:00
火曜休館
http://kawanohotori.com
http://hera-hera.net

次は、小松尾さんが『ippo』で使っているトルナットレザーを分けてもらっている製革会社[大喜皮革株式会社]も見学させてもらうことに。小松尾さんも一緒に革をなめす工房を見学させてもらいます。

古くは『播州なめし』と呼ばれた姫路の革。中でも白なめしは江戸時代中期には完成していたと言われる技法です。その昔ながらの播州なめしの製法とは違いますが、白なめしの革は今もプロ野球の硬球ボールに使われていることで知られています。

小松尾さん「大垣さん、こんにちは。今日は革をなめす工場を見せてもらえるということで、楽しみにしてきました。こちらは大阪のgrafのみなさんです」

「よろしくお願いします。僕らも家具を作る時に革を使うこともあるので、見学できてうれしいです」

大垣さん「うちは家具よりも主に鞄や財布などに使われる皮をなめしているんですが、家具メーカーも取引しているところはありますよ。まず毛が付いた原皮を洗い、毛を抜いてなめすのがこちらです」

そこには人の背丈以上の巨大なドラム缶のようなものが何台か並んでいました。これが皮をなめす機械です。下処理をした皮を、皮に耐久性を持たせるために、クロムやタンニンなどでなめしていきます。なめし加工を施すと、"皮"から"革"になります。

大垣さん「なめし剤としては、植物由来のタンニンと化学薬品のクロムが主流ですが、一般的にクロムが多いですね。なめしは、なめし剤の色で革の色が決まるんです。例えばタンニンは木の樹脂から抽出されるもので、茶色やベージュっぽい色になる。クロムはブルーっぽいグレーです」

「知らなかった! もともとの色がベージュなのかと思っていました」

大垣さん「皮はもともと真っ白なんです。なめしやすいコンディションにした生皮をこの機械に入れて、約9日間かけてなめしていきます」

「そんなに時間がかかるもんなんですね。かなり大きいタンクですが何頭分ぐらいの皮が入るんですか?」

大垣さん「これで300頭ぐらいかな」

「えー! さ、さんびゃく!!!」

「それだけの量が出されたら、この辺り一面すごいことになるのでは?」

大垣さん「ぐっちゃぐちゃになります(笑)。このタンクはクルマ1台入る大きさですからね」

小松尾さん「私も初めて知りました! 『ippo』のトルナットレザーは、クロムを使わないなめしなんですよね?」

大垣さん「トルナットは[相川商事]さんと共同で売り出しているもので、クロムなど金属なめし剤を一切使わずに、改良されたアルデヒドと新しいなめし薬品でなめしたもの。クロムを使っているのは決して悪いことではないんだけれど、繊維の規格ではクロムは使わない。また、通常クロムなめしのカーシートなどはリサイクルできませんが、これは可能です。規格の最も難しいところにチャレンジした革です。だから今回『ippo』のお話を頂いたときは、エコという切り口で、しかも姫路産というこだわりもあって、是非協力させてもらいたいなと。それに小さくてかわいいですからね」

小松尾さん「ありがとうございます。おかげさまでかなり受注も入っていてお待ち頂いている状態です。何せ1人で作っているもので。当面の目標としては在庫を持つことです」

別の建物の中では乾かしたり色を付ける作業が。乾燥させる作業は、いきなり乾かしすぎてもダメで、用途にあった風合いを出すために、一旦乾かしてまた湿気を吸わせたり、いろいろしながら約1週間かけて仕上げていきます。まだ牛の形をしているドサッと積まれた革の中には、イニシャルらしき傷があるものも。

大垣さん「アメリカからの皮には、所有者が生きている時にこうやって自分の名前を焼き印しているものも多いです」

「これって使えないんですか?」

  • 並んでいるのが皮をなめす機械。この機械でなめし加工を施して、"皮"から"革"になる。
  • この大きなタンクで1度に300頭分の皮をなめすことができるそうです。
  • なめし加工の際に加えるなめし剤の色によって、様々な色の革ができる。ブルーの革は化学薬品のクロムを加えたもの。
  • 様々な色のなめし剤。アフリカや南米産のものが多い。
  • 中央の茶色の革にはたぶんカウボーイのものであろうイニシャルが型押しされている。

大垣さん「その程度なら使えないほどではないけれど、僕らは今まで数を追う仕事ばかりしてきて、やはり均一なもの、問題の少ないものを求められていたんですが、ここ1年ぐらいで、個人で工場を訪ねてくるお客さんがすごく増えてまして。そういう方は多少問題ある革でも構わない、という方が多いですね」

「木も同じで、昔は家具としては避けられていたフシなどの部分も、今は逆にエコだったり、雰囲気として活かすことがあって、あえて付加価値が付くことがあるんです。自分のオリジナリティを求めている若い人が増えているからだと思います。だからこういうイニシャルの傷が入ったものでも、革の職人さんで欲しい人はたくさんいるんじゃないかな」

大垣さん「なるほどね。この業界はリーマンショック以降、すごく状況が悪くなってしまってね。今までは全て革問屋さんに卸していたんですが、最近そういう個人のお客さんからの問い合わせにもできるだけ対応しようと思っています」

「材木も今は5本からでも配達してくれますし、農作物でもそう。お米も色々と味見をしてから、1合、2合の単位で違う種類を買う人や、色んな銘柄を雑貨感覚で売っている店も増えています。都会の人は毎日お米を炊かない、という生活スタイルの違いもありますけどね」

大垣さん「時代性もありますが、頑なに昔のやり方にこだわるのではなく、いろんな意味で柔軟性は必要ですね。うちもいろいろ革でできる新しい分野に挑戦していきたいと思っています」

  • ご案内頂いた大喜皮革の大垣専務さん(右)と靴職人の小松尾さん(中央)。

大喜皮革株式会社

姫路市花田町高木280
TEL/079-282-0055
http://www.daiki-hikaku.jp

このムービーをご覧になるには、FlashPlayer(Ver8以上)が必要になります。下記のリンク先より最新のFlashPlayerを入手してください。(無料)

PAGE TOP