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grafが近畿2府4県を旅して考えるきれいなくらし

10.09.08

Chapter.1 播磨に残る在来種の伝統野菜"えび芋"と"ニンニク『ハリマ王』

兵庫県の南西部、播磨地区に位置する姫路市は、人口約53万人の大都市。世界遺産や日本の特別史跡として登録されている姫路城でも有名です。姫路城は昨年から大天守閣の大規模な修理工事期間に入っており、それまでに見ておこうと大行列になったニュースは記憶にも新しいところです。日本一の生産量を誇る手延べそうめん、いぶし瓦や皮革製品など、地場産業や伝統工芸品も数多くあります。

いつものように大阪・中之島のgrafビルを朝8時半頃に出発し、阪神高速経由で約1時間半で姫路に到着、まずは田中文代さんの古くからの友人である池島耕さんと合流です。

「おはようございます、お待たせしてすみません。今日はよろしくお願いします」

池島さん「おはようございます。今日は1日よろしくお願いします。じゃあ早速、まずは"えび芋"の畑へ行きましょうか」

現在、姫路でデザイン事務所を営んでいる池島さんですが、沖縄でサトウキビ、淡路島でタマネギやレタスなど、農経験も以前からあり、現在[ひょうごの在来種保存会]の代表を務める山根さんと最初に出会ったのも、有機農に関する山根さんの講演会でした。現在、平日はデザインの仕事、早朝や休日を利用してご自身の畑、そして[ひょうごの在来種保存会]の姫路地区の世話役、と三足のわらじをこなしていて、特に夏季は朝から忙しい毎日です。

この[ひょうごの在来種保存会]は、兵庫県に現在も残っている在来種を毎年栽培し、その種を採り続けながら「うまい野菜はやめられへん」と、その種を残していこうとしている会です。すでに知られている兵庫の伝統野菜を種で保存することも目的ですが、地域や家族などの小規模で種を採り続けている人を見つけ出すことも課題です。現在は岩津ねぎ、三田うど、網干・妻鹿メロン、大市なす、オランダトマト、平家かぶら、やまのいも、ペッチン瓜、武庫一寸ソラマメなど、その品種は40種類以上、会員も600名を超えています。

また、今夏にオープンした、「日本の良い食材を 食べよう!守ろう!つないでいこう!」をキーワードに国産の食材の良さをもっと広めて次代に守り継いでいこうという主旨の産直食品のネットストア「Buy Japan(ばいじゃぱん)」というサイトのディレクション・デザインなどもしています。

池島さん「ご案内するのは兼田という地区にある岡本さんという農家さんの畑です。半分はご自宅用と料理店や地元のスーパーに卸す分、もう半分は"株主オーナー制度"になっています」

「それは一般の人がえび芋を一株ずつ、購入して育ててもらうってことですか?」

池島さん「2種類あって、実際に農作業にも参加する人と、農作業は農家と世話人の方に委託して、収穫したえび芋だけをもらう人がいます。えび芋は一番暑い時期に最も重要で重労働の"土寄せ"という作業があって、それが大変なこともあり、だんだん作る人が減ったと言われているんです」

  • これが播磨の保存種、えび芋の畑です。成長すれば2mもの大きさに育つそうです。

姫路のえび芋は、もともと皇室に献上していたこともある歴史のある野菜。里芋の一種・唐の芋という品種で、しま模様でエビのように形が曲がっていることからこのように呼ばれています。50年ほど前から段々と作る人が減ってしまい、現在では自宅で食べる分だけ5~20株ほど栽培している家が10軒ほど。組合も自然消滅してしまいましたが、種だけを保存しながら小さい規模で作っていた岡本清重さん(故人)に保存会がこのオーナー制度を提案して、種芋を取りながら本腰を入れて栽培を始めました。4年目の今ではわずかではありますが、地元の産物を大事にするスーパーや農業祭、それに一流レストランと取引の多い大阪の野菜問屋さんなどにも流通するように。

畑に到着すると、そこには雑誌サイズほどの大きな葉っぱを付けたえび芋が青々と一面に広がっていました。そしてよく見ると土に人の名前が書かれた札がささっています。これが、"株主オーナー"さんのえび芋です。取材時の7月下旬でえび芋の背の高さは1.2m以上はありました。

「えび芋ってこんなに大きいんですね!」

池島さん「まだまだ成長して2メートルほどになりますよ。こちらが生産者の岡本さんです。岡本さん、今日はよろしくお願いします。簡単に栽培方法を説明してもらえますか?」

岡本さん「私らも毎年ヒヤヒヤしながらやってるんですけど、今年は去年よりもいいと思います。昨年はエビの形にできなくて...」

  • こんな風に"株主オーナー"さんの名前が書かれた木札が立てられています。

「勝手にエビの形になるんじゃないんですか?」

岡本さん「違うんです。背丈ぐらいに伸びたら、太い親株の横に小茎が出てきます。親株と小茎の間の根元に土を寄せていく、これが"土寄せ"という作業です。そうすると土の重みで子芋が親芋に引っ付いて先が細くなり、横に伸びる力で細いエビのような形になるんです。エビの形になった芋は昔からとても高く売れます」

「へー! そんな作り方だとは、知りませんでした」

  • 親株と小茎の間の根元に土を寄せる"土寄せ"の作業の跡。

岡本さん「その"土寄せ"をするのが今の時期なんですけど、とにかく暑い。暑い時期にこんな大変なことをやる若い人が減って、だんだんえび芋を作る人が減っていったんだと思います」

「なるほど...。今は全部でどれくらい植えてるんですか?」

岡本さん「オーナー制度の方のも合わせて毎年150~180株ぐらいです。作業まで手伝ってくれるオーナーさんも多いので、助かっています」

「収穫は秋ですか?」

岡本さん「10月の終わりか11月です。連作は好まないので場所は変えますが、水の入りやすい場所を選ばないと。2日に1回ぐらいは畑に水を入れないといけないので。この畑は水をよく吸うので、畝にいっぱい水を張っても2、3時間でもう今みたいな状態に...」

「日照りもあって、水もあるところでないと、栽培はできないんですね」
「水がすごいキレイですよね。流れがある水際の野菜はとてもキレイだと思います」

岡本さん「川の横なんで、水には恵まれていますね」

「えび芋はどうやって食べるんですか?」

岡本さん「小さいのは普通に炊いて生姜醤油で食べるのがおいしいですよ」

池島さん「皮がきれいに取れるんですよね。プチュッと芋がでてきて、とうもろこしの味に似てとてもおいしいですよ」

岡本さん「あと"芋煮会"というのをしていて、汁物の中にいれたり、芋茎を炊いたり、みんなで収穫祭みたいに試食するんですよ」

「いいな! すごくおいしそう」

岡本さん「ぜひまた収穫の時期にいらしてください」

「はい!」

  • 中央の青いTシャツの方が、えび芋畑のオーナーの岡本さん。えび芋の栽培のご苦労をお聞き致しました。

続いて訪ねたのは、姫路の北東に位置する加西市で在来種のニンニク『ハリマ王』を栽培する北本惠一さん。日本特産農産物協会の地域特産物マイスターとしても認定されています。[ひょうごの在来種保存会]の山根さんと共に名付けた『ハリマ王』は、もともと北本さんの祖父・兵作さんが戦前に作っていたもの。戦時中は竹やぶに放置されていたというそのニンニクが再び脚光を浴びたのは、昭和30年のこと。市内にオープンする焼肉店が"秘伝のタレ"を作るためのニンニクを探しているという相談が北本さんのお父さんの英雄さんのもとに寄せられ、「そういえば...」と竹やぶを散策すると、なんとそこには約20年間も自生したニンニクが! そのニンニクは、独特の辛さとニンニクらしい鮮烈な強い香りが特徴で、以来その焼肉店では名物の"秘伝のタレ"として今も人気だそうです。

  • 朴訥とした表情で、飄々とお話しする北本惠一さん。お話ししていると魅力に引き込まれる方です。

北本さんの家に着くと、日陰にたくさんのニンニクが干されていました。臭いこそしなかったものの、竹やぶに自生していた話をお聞きしていたので、プリッと引き締まったその実に生命力の強さを感じます。

池島さん「これが『ハリマ王』です。北本さん、おはようございます」

北本さん「えらいようさんで来たんやな。みなさんよろしく」

「よろしくお願いします。これは収穫して干してるんですよね。収穫はだいたいいつ頃ですか?」

  • 北本さんの家の軒下に吊された『ハリマ王』。播州地方の保存種です。

北本さん「今年は5月22日前後だったかな。9月の20日前後の連休に植えて、普通は6月まで置いておく。収穫してから家の横にこうやって1カ月ほど干すんやけど、うちは一般のニンニクより固くしてから出荷してる。生のニンニクを欲しいという人には早めに分けてあげてます。じゃあまず畑へ行きますか」

今はニンニクの種を植える前の時期なので畑には土だけでした。一見普通の土に見えますが、実はこの土がポイント。

北本さん「うちは40年間ぐらい、土作りからニンニクを作っていることになる」

「土作りに、よ、40年ですか!」

北本さん「堆肥を4トン近く入れていた時代もあったな。うちの孫がニンニクの収穫を手伝ったときに、子供の力でもスッと簡単に抜けて。それを見たニンニク作ってる人がすごく驚いていたな。そら普通は掘り起こすもんやからね。別に何の仕掛けもなくて、『土作りを40年間してたらこうなります』って説明しました」

「すごいなぁ。ぜひ収穫手伝ってみたいものです」

北本さん「ほんまやな! 来てくれよ」

池島さん「タイミングが合えば是非お越し下さい(笑)」

「他に野菜や米も作ってるんですか?」

北本さん「場所は離れているけれど、うちは他に米と有機栽培のゴマや蕎麦、大豆などを作ってる。ニンニクを作った後の畑で米を作るとなぜか美味いんや。あ、そろそろ小豆も撒かなあかん」

池島さん「ここでは出荷用と種用と両方を作っているんですよね」

北本さん「植物の繁殖の仕方には種子とか接ぎ木とかいろいろあって、ニンニクは栄養繁殖。種子ができないので、いわゆる球根形のあの1片を植えて繁殖させます」

「種は何百何千個って取れるけど、それに比べるとニンニク1片って数は少ないわけですから、増殖率は低いですね」

  • 北本さんの『ハリマ王』のニンニク畑。40年もの間、土作りから手を掛けてきた宝物です。
  • この土のおかげで北本さんの畑のニンニクは、深く掘らなくても簡単に収穫できるそうです。
  • お昼のおかずにと、サツマイモの蔓を採取する池島さん(左)。これをきんぴらにして食べるそうです。

北本さん「そう。だから『親の因果が子に報う』じゃないけど、親がべっぴんで味が良ければそれが色濃く引き継がれる。自生しながらハリマ王はハリマ王の形質が確立された訳や。韓国の留学生に食べてもらったら『おいしい!』とうならせた、お墨付きのニンニクやで」

「食べてみたい!」

池島さん「その焼肉屋さんの"秘伝のタレ"は北本さんの家にもありますよね?」

北本さん「熟成されたヤツが2本ある。これでナスを炒めると美味いんや」

池島さん「じゃあ僕も作りますんで、台所お借りしていいですか?」

「堀田くんにお料理作ってもらいます。おにぎりも持ってきましたのでお昼ご飯にしましょう」
という訳で、北本さんの家にお伺いして、お昼を食べることに。まずは"秘伝のタレ"を試食させてもらいました。

北本さん「平成17年と19年のものです。色も違うやろ」

「うわー、さすが17年の方は見た目も味も濃厚」

「ハリマ王ニンニクが生きてますね。これは旨い!」

「焼き肉以外には、ナスとか炒め物ですか?」

北本さん「わしはトマトに付けて食べるのが好きやねん」

「以外と手軽なんですね。調味料的な使い方もできるんや」

  • 北本さんの『ハリマ王』で作った秘伝のタレ。平成16年のものと平成19年のもの。熟成の年月によって、味わいが違う。

ニンニク畑からの帰りに調達した食材を調理して、野菜のおかずが4皿完成。メニューは、ナスの"秘伝のタレ"炒め、サツマイモの蔓のきんぴら、スベリヒユ(ヒョウ菜)のおひたし、北本家自家製味噌のもろきゅう。キュウリはニンニクオリーブオイルと粗塩で食べても美味です。スベリヒユは田んぼなどに生えている"食べられる"雑草。ヌメリと酸味があり、モロヘイヤのような食感。北本さんの奥様と池島さん、料理研究家の堀田さんが腕をふるってくれました。

野菜のおかずにはトッピングに有機ゴマを掛けたり、おにぎりにはちりめんじゃこをニンニクのオリーブオイルで炒めてクルミやゴマを入れた自家製ふりかけを掛けたり、北本家ならではの食材と一品も。

「このナス、めちゃおいしい! "秘伝のタレ"は立派なソースですね、完全に」
「芋のツル初めて食べたけど、歯ごたえがいいね」
「このふりかけ、止まらない...」

  • ナスの"ハリマ王で作った秘伝のタレ"炒め(右)とスベリヒユ(ヒョウ菜)のおひたし(左)、瓶に入っているのはちりめんじゃこのオリーブオイル炒めクルミとゴマ合え。
  • キュウリはニンニクオリーブオイルと北本家の自家製味噌を付けて。

北本さん宅には、ニンニクをはじめ、フルーツなどを使った保存食が他にもたくさんあり、見せて頂きました。レシピが新聞にも掲載された「ハリマ王ニンニクの酒粕漬け」は、もともと北本さんのお父さんの英雄さんが作っていたもの。梅干しや塩、砂糖はグラム数だけでなく、どこ産でいくらで買ったものかまで細かく書かれています。酒は播州の銘酒、富久錦の原酒を使用。フタを開けると酒粕とニンニクのなんとも言えない甘い独特なにおいがします。飴色によく漬かった一片を試食させてもらうと...。

「これは完全に酒のアテですね」
「冷酒と合いそう。奈良漬けっぽい?」
「ニンニクの風味が強くなってる。キュウリとも合う」
「夏バテしないですね、これ食べてたら」

北本さん「この粕だけでご飯を食べてもおいしいで」

他には、炒め物などにも重宝するニンニクが入った菜種油やローズマリーの代わりにシソの実を入れたニンニクオリーブオイルなど、オリジナルの食用オイルもいろいろ。フェイジョアという南米原産の果物で作った甘酸っぱいジャムは、トーストにニンニクのオリーブオイルと一緒に塗って食べるとおいしいんだそう。クワの実のソースやビワのシロップ煮など、冷蔵庫にはデザート系の保存食もたくさんありました。どれも全て北本さんの奥さまの手作りで、試行錯誤しつついろいろ新しいものに挑戦されているようでした。

  • ハリマ王ニンニクの酒粕漬け。播州の銘酒、富久錦の原酒を使って漬けたニンニクは風味が倍増。これを食べれば、夏バテ知らずです。

北本さん「結局、長持ちさそうと思ったら、乾燥か菌の作用で発酵させるかしかない。そうしたら自然と保存食として使われる部位は種や実に限定されてくる。ニンニクも栄養繁殖するから、植えられるシーズンの10月までは腐らないように頑張ろうとするんやな。これが化学肥料とかで甘やかされた環境やったら、多分10月まで子孫を残す間もなく討ち死にや。うちで自生していたハリマ王ニンニクは、30年間ほったらかしにしていて、おそらく何株かは肥料になってたんやろな。まさに自然の有機肥料。今もその遺伝子は引き継がれていて、このニンニクは子孫を増やすために頑張ってる、だから味も独特な個性があるんやと思う」

ご飯を食べた後はすっかり打ち解けて、北本さんご夫妻と雑談タイム。お家にお伺いして食事をご一緒すると、自然と場の空気感が和みます。その家のくらしの形を共有させてもらう時間はとても楽しく、この日もついつい長居。ハリマ王ニンニクをお土産にもらって、次の取材に向かいました。

『ハリマ王』作りのスペシャリスト、北本さんご夫妻と記念撮影。ニンニクのように力強くてたくましく、頼もしい方ですっかりファンになりました!

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