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grafが近畿2府4県を旅して考えるきれいなくらし

10.06.30

Chapter.2 [針江 生水(しょうず)の郷]と [針江のんきぃふぁーむ] 琵琶湖の恵みと生態系を守るくらし。

[針江 生水の郷]の中心地。豊かな水の恵みで、生き生きとした緑が溢れています。

続いて向かったのは、旧家が多く残る高島市新旭町にある[針江生水(しょうず)の郷]。
"生水"とは湧き水のこと。この針江地区には、比良山系から湧く伏流水を生活用水として使う「川端(かばた)」と呼ばれる自然と共存する炊事場のシステムが、一般の家庭に今も残っています。2004年にNHKの特集番組で放映されて以来、観光客が急増し、無断で川端を見学に来るマナー違反の人も増えてしまったことから、地元の有志が中心となり[生水の郷委員会]を結成、ガイド付きで川端を見学するエコツアーをスタートさせました。

我々もそのエコツアーに参加。案内してくださったのはボランティアガイドの前田正子さん。このツアーは年間7千人もの観光客が参加していて、その収益金は針江の環境整備や保全、水に恵まれない子ども達の寄付のほか、地元の人々にも様々な形で還元されているそうです。川端の水を飲むために配られた竹のコップは、近年使うことが少なくなって荒れていた竹藪を整備して、地元のお年寄りが手作りしたものです。町の真ん中には川端とつながっている針江大川があり、夏は子どもたちのプール代わりにもなるそう。この川の約1.5km先には琵琶湖があります。

前田さん「ちょうど今は田植えの時期なので少し水が濁っていますが、普段はもっと透き通っています。昔は全ての家に川端がありましたが、現在この集落には約100カ所以上の川端があって、その中で鯉がいる川端がたくさんあります。

「え? 川端で鯉を飼ってるんですか?!」

そう、川端の中には鯉や鮒がいます。川端は地下水が湧き出た水を溜める場所を「壺池」と呼び、ここで洗顔や野菜を洗ったりします。ここからあふれた水が流れる所が「端池(はたいけ)。鯉はこの「端池の中にいて、食事後に鍋やお皿を川端に浸けておくと、この鯉が食べかすや野菜くずを食べてくれるのです。なんて合理的で賢いシステム!

前田さん「鯉は何でも食べますよ。うちの鯉はカレーが1番好き(笑)」

「へー! 人間は家事が軽減されるし、鯉は餌いらず。それに川端の水もきれいになる。目に見える自然との共存ですね」

それだけでなく、川端の湧き水は、ご飯を炊くためや洗濯など、日常の生活用水として家の中でも使えるように、各家庭にホームポンプが設置されています。一応どの家庭にも水道が引かれていますが、水道料金は基本料金だけなんだとか。

そうして実際に川端を何軒か案内していただくと、「こちらの川端は...」と、家の外や別棟にある「外川端(そとかばた)、母屋の中にある「内川端(うちかばた)、大きい鯉が何匹もいる川端など、大きさや形はいろいろ。川端は台所や洗面所も兼ねているので、野菜や飲み物が冷やされていたり、タワシやタオル、歯ブラシなどが置いてある家も。

前田さん「どうぞ竹のコップで水をすくって飲んでみて下さい。ちゃんと検査してきれいなことが証明されていますから」

「おいしい! においもないし」
「川端の水が飲めなくなったことはあるんですか?」

前田さん「ないですね。3年前に多くの川端で水が出なくなったことはありますが、生活に困ると言うことはありません。私はこのツアーを始めるまで、川端を当たり前の生活だと思っていたのですが、人が訪れるようになって、水に恵まれたこの川端のありがたさが分かるようになりました」

昔は洗濯をする共同の洗い場などもあり、川端というシステムを通して、地域の人全てへの心遣いが普通に根付いているところに、温かさを感じました。


針江生水の郷エコツアー

滋賀県高島市新旭町針江315 針江公民館横に受付所
TEL/090-3168-8400(生水の郷委員会)
ツアー代金:大人1000円(川端と町並みコース)
出発時間 10:30/13:00/15:00
http://www.geocities.jp/syouzu2007/

空き家を利用した川端付きの宿泊施設もあります。
[生水の生活体験処]は1人1泊3,000円

  • [針江 生水の郷]のシンボル的な存在の水車。
  • 針江の中心にある日吉神社。5月の春祭りの宵宮の時には鐘と太鼓が響き渡り、祭りを盛り上げます。
  • これが川端。家屋の外にあるのは外川端。先祖代々受け継がれた生活の知恵です。
  • 川端の中。中央のパイプから水が滴っているのが壺池。その周りが端池。端池には鯉などの魚の姿が見えます。
  • 針江の川端の中には、鯉だけじゃなく亀やサンショウウオがいるところもあります。
  • 川端は台所であり洗面所でもあり...。たわしやブラシ、歯ブラシ、洗面具など生活用品が置かれている。
  • 川端の壺池の湧き水は水質がきれいなため、こうして飲むこともできます。定期的に水質の検査もしているそうです。
  • 水路に自生していたクレソンをぱくり。水がきれいだから、魚だけでなく川藻や植物も生き生きと茂っています。

続いて、このエコツアーの場所からすぐの、石津さんの[針江のんきぃふぁーむ]を訪ねました。[針江のんきぃふぁーむ]は、生産から農作物の加工までをここ針江で行っている米農家。ちなみに先ほどのツアーでも石津さんの家の川端を見学させてもらいました。

こちらの全てのお米は、化学肥料、農薬を一切使用しない無化学肥料無農薬栽培、 もしくは初期の1度使用した無化学肥料減農薬栽培。この農法を実際に始めたのは今から22年前。最初は農薬を半分に減らすことから始めたものの、草刈りなどの仕事量は増え、近辺の農家からの苦情もあり、結果的に収穫量が減る=収入も減...という、決して見通しの明るい道ではありませんでした。それでも農薬を使わないことで田んぼに生き物が帰ってきたり、おいしいお米ができたり、目の当たりにする明らかな変化が背中を押し、コツコツと毎年試行錯誤を重ねて今の農法に辿り着いたのです。

「こんにちは、石津さん。遅くなってすいません」

石津さん「こんにちは。じゃあ早速、中を少し見ていただいて、田んぼに行きましょうか」

「この袋はお米じゃないですよね?」

石津さん「それは肥料です。肥料はほとんど米糠をペレット化して作っています。くず大豆や米の副産物として出る糠を使いやすいように機械で肥料形状にするんです」

「ウサギの餌みたいな形ですね。肥料まで作っているとは」

クルマで5分ほど走ったところにある石津さんの田んぼは、まだ固まった土を掘り起こした「荒おこし」の状態でした。

石津さん「ここでは『滋賀羽二重糯』という品種の米を、全て手でおこす田んぼで作る予定です。近所のおじいさんに教えてもらいながら、忠実にやっています」

「機械を使わずにですか? 相当大変ですよね、それ」
「のんきちゃうな、本気やな...」

  • 石津さんの[針江のんきぃふぁーむ]の農機具小屋の中。耕耘機やコンバインなど、大型の農機具がズラリ。
  • 22年前から無化学肥料無(減)農薬栽培を行ってきた水田には、白サギなどの鳥の姿が。田んぼに魚や昆虫の生態系が生きている証です。
  • [針江のんきぃふぁーむ]の倉庫。積まれた袋には米ぬかを用いた肥料が入っている。
  • もみ殻や米ぬかを機械でペレット化して、こうした形の肥料にする。
  • 全て手で土を掘り起こした「荒おこし」の田んぼでは、絹のようなきめ細やかさから"餅米の王様"と称される「滋賀羽二重糯」を栽培している。

次に見せてもらったのは、田んぼの横にある魚道。魚道とは文字通り魚が通る道のこと。しかし今、通常の田んぼで魚を見ることはまずありません。それには理由がありました。

石津さん「もともと琵琶湖周辺の田んぼは、鮒や鯉といった魚の産卵場所でした。しかし琵琶湖の圃場整備事業などによって、田んぼと水路の落差が大きくなってしまい、魚が田んぼに入れなくなったんです」

「それは田んぼから魚を追い出すため?」

石津さん「いいえ、落差があることで田んぼで機械が使えるようになったり、利点はありましたが結果として田んぼから魚の姿は消えてしまったんです。そこで、また魚を田んぼに戻すために作ったのがこの『千鳥X型魚道』」

『千鳥X型魚道』は、傾斜を付けた隔壁を交互にはめて水たまりを作り、魚が上りやすいようにしたもの。宇都宮大学の先生が考案したもので、田んぼ以外の場所でも実験的に使われているそう。この田んぼでは2006年から設置を始め、同年の調査では3千匹以上ものニゴロフナの稚魚が魚道を下り、琵琶湖へ旅立っていきました。

石津さん「ちょうど今頃5月から6月にかけて、雨が降って水位が上がると実際にナマズやフナがこの魚道を通って田んぼに上るようになりました。そして稚魚になったら琵琶湖に戻って行くんです。田んぼに魚がいると、その魚を餌としていたチュウサギやトンビも来るようになりました」

「動物は分かるんですね、自分にとって安全な場所が」

[針江のんきぃふぁーむ]は、千鳥X型魚道を使い、田んぼを魚の産卵や生育場所にする『ゆりかご水田プロジェクト』の他にも、休耕していた田んぼに水路を造って湿地帯にし、魚を上りやすくした『みずすまし水田』にも、取り組んでいます。また、日本で初めて「GMO Free Zone(遺伝子組み換え作物拒否地域)」を宣言した地域でもあります。

水中のプランクトンを食べる魚がいて、稚魚を食べる鳥がやって来る田んぼ。石津さんの田んぼには、水辺の生態系が生きていました。単に米作りのためだけでなく、生き物たちの生活の場として守ってあげることや、そういう環境に戻してあげる取り組みは、私たちのこれからの生活や琵琶湖の未来のことを考えると、決して農業と無縁ではないんだということがしみじみと分かりました。

最後に案内してもらったのは、[針江のんきぃふぁーむ]で最も広い田んぼ。約一町四反(約13900㎡=1.39ヘクタール)。水平線が見えそうな(実際には見えませんが)広さ! 田植えに向けてすでに水が張られていて、その水は濁っていましたが、これは雑草が生えてこないので良いことなんだとか。土を触ってみると、フワフワの層の下にトロトロの層が。このトロトロの層が1cm以上あれば、雑草が生えにくいんだとか。土を障りながらちょっとうれしそうな石津さん。今年の米作りの意気込みが感じられました。

  • 子供達が観察したり遊ぶために作った、赤浮草が一面を覆い尽くしている田んぼ。浮草の下には魚がいて、ビオトープとして水辺の生態系が守られている。
  • 中央の木の枠のようなのが、魚が田んぼに入れる魚道として取り付けられた『千鳥X型魚道』。
  • [針江のんきぃふぁーむ]の田んぼは『魚のゆりかご水田プロジェクト』によって、魚や昆虫たちが生きる生態系が守られています。
  • 休耕田に水路を造って湿地帯にした『みずすまし水田』と称される田んぼ。こうすることで田んぼの中を魚が自由に泳ぎ回れるように。
  • 苗を育てているビニールハウスの中。水をぎりぎりまで与えないとか、苗にストレスを与えると、こうした太くて丈夫な苗ができる
  • みんなで水の張った田んぼの中に手を入れて土を掬ってみると、トロトロになった土の層が。

農業の近代化・機械化によって失われつつある先人の知恵を今一度見直して、次世代の子ども達に食と農を繋ぐ営み。それが石津さんたちの目指す農の姿です。

針江のんきぃふぁーむ

滋賀県高島市新旭町針江417-1
TEL/0740-20-5067
http://nonkifarm.com

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