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grafが近畿2府4県を旅して考えるきれいなくらし

10.05.26

Chapter.3 [TRILLINM(トリリウム)]と[中川政七商店]が考える『これからの奈良』

朝からの奈良への取材も、一日は早いもので、知らず知らずのうちに日も暮れて...。 今回の取材の最後は、中川さんのご紹介で、中川さん自身もメンバーとして参加している、奈良のライフスタイルを提供、発信しているウェブマガジン「TRILLINM(トリリウム)」のメンバーに集まって頂いて、市内のおでん屋さん[竹の館]での懇親会(飲み会?)です。

「縄暖簾がええ感じ。間違いなくええ店や!」

中川さん「ここね、腹一杯食べても1人1000円ぐらいなんですよ。飲んでも滅多に3000円いかない」

「衝撃的ですね! その値段」

伊丹さん「一つ一つのおでんがすごく大きいので食べ応えがあるんですよ」

竹の館

奈良県奈良市南魚屋町25 TEL/0742-23-6227
17:00~翌3:00
不定休

あっさりしたおでんと、おかみさんの井元政子さんの接客に、夜な夜なご近所さんはじめ老若男女が集う居酒屋。
おでんの具材がどれも迫力の大きさなのもうれしい。
シメはこれも名物のうどん(400円~)で。

  • [竹の館]での懇親会の様子。初めはみんな遠慮がち?だったんですが、1時間後には大いに盛り上がりました。
  • 創業以来40年来変わらないあっさりダシとど迫力の大きさのネタのおでんはもはや奈良名物! 店名のごとく竹で設えたお店も壮観。

中川さん「まずは乾杯しますか! では服部先生、お願いします」

服部さん「先生って(笑)。ええと、今日も滋賀の男前が来てるんですけど、このEEIEという企画ではgrafが近畿一円を繋ぐ旅っていうのをやっていて...」

冨田さん「初めまして。滋賀でお酒を造っている[冨田酒造]の十五代目です。EEIEの初回に取材していただいてから、僕も勉強のために、たまにこうして参加させてもらってます。grafの皆さんとは、滋賀で農業をやってる同世代のメンバーにまで輪が自然と広がって、イベントも一緒にさせてもらったり...。今日お会いした、社長の中川さんとは同じ歳で、今日もすごく勉強になりました」

乾杯の様子。中川さん(右端)やトリリウムの皆さんとgrafのスタッフ、みんないい笑顔です。

「そうそう、これを機に、奈良の皆さんとも交流できればと思ってやって参りました。こんな不景気な世の中なんで、みんなで繋がってコミュニティを熱くしていくことができたらいいかな、と思っています。真面目なこと言ってしまったかな。大丈夫?(笑) では、前途を祝して乾杯!」

一同「かんぱーい!」

中川さん「服部さんの、突然真面目なスイッチが入るところが好きです。冨田さんは私と同じ歳ですか! お若く見えるのがうらやましいです。じゃあ早速、奈良の同世代メンバーを紹介させてもらいますね」

「TRILLINM(トリリウム)」は、奈良に暮らして働いている20~30歳代の同志らが中心となって、2008年にスタートした情報発信サイト。カルチャー、音楽、食など、メンバーそれぞれの視点で選んだ奈良の情報をHPで紹介しています。 その情報は、新しい店からあまり知られていない奈良の伝統工芸や文化、モノの紹介まで、新旧織り交ぜられていて、HPのデザインもいかにも情報サイト的なゴチャゴチャさはなく、シンプルで実にスタイリッシュ。また、店をやっているメンバーや中川さんのように家業を継いでいる人、サラリーマンやアーティストなど、様々なジャンルの仕事をしているメンバーのブログを通して、リアルな奈良の暮らしを垣間見ることができます。

トリリウムのメンバーの建築家の北条愼示さん(左)と服部さん。奈良の建築のことなどで熱く語り合いました。

中川さん「こちらがTRILLINMの立ち上げメンバーです。建築家の北条愼示さんと奥様でグラフィックデザイナーの麻里子さん。そして白石陽一さんは[OKIRAKU]という美容室なんだけど服やCDも置いている店をされていて、音楽イベントのオーガナイザーでもあります。そして、若草山の麓でお土産と食事処の店を経営されてる中川文雄さん。もともと東京のアパレルで働いていて、今は家を継がれています」

「今日はよろしくお願いします。TRILLINMを立ち上げられたきっかけは?」

北条さん「僕らみんな、東京で働いた経験があって、その後、奈良に戻ってきているんです。で、東京の『honeyee.com(ハニカム)』ってWEBマガジンをみんな見ていて、honeyee.comはメンバーもメジャーですが、ああいうイメージのサイトを奈良版で作れたらいいね、って話になって...。そもそも奈良に住んでる人は、仕事場は大阪っていう人が多いんです。他所で『奈良って田舎やね』って話をされると、本当は奈良が好きなのになんか肩身が狭いというか...。だから『奈良に住んでる人も、奈良って結構イケてるやんって思えるツールがなにかあればいいよね』って、立ち上げたのが最初でした」

「なるほど。honeyee.comはよくできたサイトですよね。北条さんたちは、中川さんとはもともとお知り合いだったんですか?」

北条さん「『月刊奈良』という雑誌で、『奈良モノ』という取材ページを私が担当してまして。京都で最高の物という意味の『京もの』に対して『奈良もの』。そういう言葉はないんですけども、奈良の逸品を紹介しようというページです。その1回目に取材させてもらったのが[中川政七商店]でした」

中川さん「で、その取材がきっかけでご飯に行くようになって、僕もメンバーに入れてもらいました」

服部さん「『奈良もの』か~。『ならずもの』とかにしたらいいんちゃう? すごいカッコいいやん」

中川さん「さすが、すぐ色々と思いつきますね~」

「でもならずものって、最高とはむしろ意味が全く逆なんですけど...(笑)」

服部さん「『京もの』って日用品ではないよね。特に京都で職人さんが作っているものは、ほとんどが"ハレ"のもんやんか」

中川さん「『ハレの京都』に対して『日常の奈良』ね。それは、力強いかといえば、すごい弱いかなって...」

服部さん「でもね、使用頻度や身のまわりにあるボリュームで考えると、圧倒的に日用品の方やで。例えば、大阪やったら東大阪って下請けのすごく優秀な工場がいっぱいあるのね。それが東大阪のウリでもある。だからそういう意味でも、奈良に行ったらどの日用品も作れるってすごいことやと思う」

暖簾に染め込まれた[中川政七商店]のロゴ。この暖簾ももちろん昔と変わらぬ手織りの麻で出来ています。

中川さん「なるほど。新しい[中川政七商店]ブランドは、そういった意味では"ハレ"ではなく日用品です。だから『道具』という言葉をキーワードに考えていて、その前に何か言葉を付けようと。で、いろいろ考えた結果、最もフィットする『暮らしの』という言葉になりました。これで、和雑貨といえば[遊中川]、贈りものといえば[粋更kisara]、暮らしの道具といえば[中川政七商店]という明確な棲み分けができました。かつ、それぞれ日本の工芸でブランドを3つ作ろうと思っています」

服部さん「良いね。奈良の人たちに、そういった奈良だからこその価値観を発信してあげないと!」

中川さん「発信って、やっぱり発信元の影響力の強さが全てだと思うんです。個人的な意見ですけど、強くならないと結局、見てくれる人も少ないし、お金を使ってPRを打ったからといって発信したことにはならないんです。そう考えるとまず影響力を与える強い存在に、会社なり自分なりがならないと...。まだまだですが、最近やっと少しずつ強くなってきていると思うので、3つ目のブランドも立ち上げることができたと思います。昔だったら商品は作ることができても、よう売らんかったと思います。でも今やったら売れるかもしれない。やっぱりハードルは高いですけどね」

昔ながらの製法で織り上がった麻。代々受け継がれてきた製法でしか出せない、独特な風合いと温かみが感じられます。

中川さんの会社の商品は、全て奈良産や奈良モチーフにこだわっている訳では決してありません。もちろん創業から300年以上扱ってきた『奈良晒』という麻など、奈良をアイコンとする商品も多いですが、日本各地の伝統工芸品、メーカーや作家とコラボレーションしたものなども、人気アイテムの一つです。そんな中川さんの商品の話から、奈良というローカリティの話に。

中川さん「服部さんの中で、例えば奈良なら奈良で作るってことへの縛り感は、結構強いですか?」

服部さん「いや、どこで作ってもいいけど、ローカリティはすごい大事やと思う。グローバリズムが崩壊したときに、いかに自分のローカルを理解しているか、ローカリティを持っているかっていうことが一番の強みになると思うねん」

中川文雄さん「そうですね。今、結構、地方が注目されているのも、そう意識している人が増えているからかも」

白石さん「今日1日、奈良に来られてどうでしたか?」

服部さん「僕が行ったことがある地域では、例えば千葉はポテンシャルがすごいんですよ。それに土台、水がおいしい。そういう良質な資源があれば、物作りには重要な武器にもなる。それに比べると、大阪は資源はないし商売のセンスも最近ダメだし、テクノロジーを支える技術しかおそらく今残っていないんですよね。今回奈良に来て思ったのは、奈良は資源もポテンシャルも両方持っているなってこと。奈良のポテンシャルって歴史やと思うんですけど、その歴史的な背景を形にして、知識として持っているだけでも、やっぱりだいぶん強いと思う」

白石さん「歴史という知識か。それは個人にも会社にとっても大事な武器ですね。せっかく平城遷都1300年祭で盛り上がりつつある奈良なのに、何も背景を知らないんじゃ、もったいない」

北条さん「『奈良モノ』では、そういった歴史的な背景があるアイテムをクローズアップしてるんです。奈良以外の人だけじゃなく、奈良に住んでる人にも、こういう素晴らしいモノが奈良にもあるんだっていうことを知ってもらいたくて」

服部さん「そういうこと。よそからのお客さんや友達から『どっか、奈良いいとこない?』って聞かれたときに、個人の好みやお気に入りの場所を紹介するでしょ。つまり個人のそれぞれの知識が奈良を紹介しているわけで、僕はそういう個人が持っている知識や質が大事な時代やと思うんです。だから個人がプロデュースするっていうのは正しいと思うし、僕もそれをやりたいと思う」

昔ながらの伝統の手法で織り上げられたテーブル敷き。染められた文様も、奈良の伝統を感じさせるものです。

中川さん「もともと奈良をあまり見ていなかったという反省はあるんですが、『奈良には何もない』っていう観点から物を探す方が、意外と見つけやすかったりするんです。奈良にも割と色々あるってことが、最近少しずつ分かってきました。ブランディングしたいメーカーとか産地とか、奈良にまだ結構ありそうな気がします。縛りを日本全国に広げる前に、奈良でもう少しやり尽くさないといけないな、と感じています」

服部さん「結局、ローカリズムをなんで濃くせなあかんかというと、世界中に同じセンスを持った共感者がいっぱいいるから。そういう人たちと早く出会った方が絶対にいい訳やから。で、中川さんがそのパイプを作って、みんながグワッていけたらいいと思うし」

北条さん「連れて行ってください(笑)」

服部さん「コミュニティって、やっぱり自立者たちが集まってないとあかんと思う。補い合うよりも、自立している人たちの強くて質の高いコミュニティ。そういう人たちと繋がったら、世界でも絶対勝てると思うし、すごい勝負したいやんか。自分の価値観をどういうところで表現しているのか、いろんな人とコミュニケーションを取りたいわけで。早くそういう人たちと出会いたいと思うし、意識の高いコミュニティの中で何をやっていくかっていうことが、次の未来を作っていくと思う」

そんな話題を熱く語っていると、ついついお酒もすすんで、夜10時を過ぎても話は尽きませんでした。最後には、初めて会ったTRILLINMのメンバーもみんな仲間のように...。

地方で暮らすということ。
それは奈良に限らず、その土地でどんな誇りをもって、どんな活動をし、どう人と繋がっていくかで、大きな可能性も秘めています。自然と新しいコミュニティが生まれていたような、そんな奈良の夜でした。

Fin
(取材/天見真里子)

最後に中川さん、TRILLINMのメンバーと一緒に記念撮影。みんな少し赤ら顔でいい感じです。奈良の皆さん、今日はありがとうございました。

grafからのメッセージ

大阪から近いのに、意外と知らなかった奈良のこと。奈良の伝統、街や人と深く関わりながら物作りをされている[中川政七商店]さんの今と昔を繋ぐビジョンを知ることができたと同時に、奈良のことを学んだ1日でした。

物作りの現場、奈良晒の[遊工房]では、誰もがその工程の複雑さときめ細かさにびっくり。こういった伝統的で丁寧な製作過程を目の当たりにすると、物そのものへの思いも深くなります。

「今回の取材では、ひとつの物が出来上がるまでの背景を深く知りたいという想いがありました。糸と糸を織り上げる機具も、何百年も前からの人々の知恵と工夫、労力によって作られてきたものであることを目の当たりにしました。こうやって、昔から継承され続けている手業と想いが詰まった布を見ると、日々の暮らしの中で当たり前にあると思っている物でも、感謝を持って大切に使わないといけないと思いました」

「線(糸)が面(布)になる瞬間は、目を見張る迫力がありました。糸が織り重なって布が出来ていることや、糸が糸になるまでの長い道のりを知って、布が新鮮に見えるようになりました。また、糸が絡まらないように小豆を用いていたり、と身の周りにあるものを工夫することによって、道具として用いていたのも面白かったです」

「最近、様々なところでよく耳にするのが、後継者不足のこと。今回の取材で伺った奈良晒の工房も時代が止まったような古い工場で、ここでも若い後継者はいないということでした。手作りの美しい麻織物、誰かがこの技術を受け継ぎ、これからもずっと絶やさずに作り続けてほしいという願い......。たくさんの人がこの技術を知り、その製品を見ることによって、物本来の価値を理解してくれる人が増えて、そしてまた『作りたい』という人が増えればいいなと思います」

「かつてはみんな手作りだったものも、時代と共に便利な道具が増えて機械化されたり、自分で作るよりも買う方が安かったり、と手作りの良さが忘れられていましたが、ここ最近は手作りの良さが見直され、作り手も増えているような気がします。是非この傾向が拡がって、昔からの道具や知恵を時代を超えて繋いでいくようになればいいですね」

工場長の老間さんの手によってきれいに選定されたお庭。こんな普段の心遣いの大切さを教えられます。

「『ここのお庭、すごいんです』と、[中川政七商店]の広報の伊丹さんがちょっと自慢げに案内してくれたのが、[遊工房]の老間さんによって斬新に剪定された庭木。伊丹さんもここを訪れるのが楽しみなんだろうな、と私まで嬉しくなりました。土を踏まないことが多い生活を送っている私にとっては、自然に近く、四季を豊かに感じられる生活が、とてもうらやましかったです」

[ティーポート月ヶ瀬]や[御宮知靴下]では、「お茶」と「靴下」という、奈良の二大産業についても知ることができました。

「[ティーポート月ヶ瀬]でいただいた煎茶はとても甘く、優しい味でした。そういえば、奈良出身の私の両親は毎日、茶粥を食べているなと気付いて、奈良の人にとってお茶は日常に根付いたものなのだと再認識しました。その地元の美味しいお茶を[中川政七商店]さんでは商品として、また茶房で奈良以外の人にも嗜んでもらう機会と場をつくられており、とても有意義なことだと思いました」

「[御宮知靴下]の社長さんのお話で印象的だったのが、『[中川政七商店]さんのアイデアに、[御宮知靴下]の技術力で応える』という言葉。お互いに刺激し合う関係から、良い商品が生まれることが分かりました」

「grafのショールームでも販売しているアームウォーマーの製造元である[御宮知靴下]を訪ねて驚いたのは、靴下のデザインに応じて、工場長さんが考えながら自らその複雑な機械を改良して製造していることでした。grafでもそれぞれのスタッフが得意分野を発揮して、日々物づくりに取り組んでいますが、アームウォーマーも[中川政七商店]さんの企画に、[御宮知靴下]さんが技で応じて出来た商品だと知りました。お互いの得手を生かした物作りは、今後さらに深まっていくことで、やがては奈良という街自体の活力にも繋がるんだと、改めて感じました」

今回参加したメンバーは、設計や製作、販売、企画といったそれぞれの異なる目線から、中川さんの物作りの現場や取り組みを見ていたようです。

「たくさんの人の想いや技が詰まって、物は生み出されるのだと実感しました。今回感じた事を、自分なりの言葉で伝え、発信していきたいと思います」

「私が今設計している[中川政七商店]という新しいブランドの1号店では、お店に来てくれた方がものが作られた土地や人の存在を感じてもらえる空間にしたい、と思いました」

また、冨田酒造の冨田さんも、社長の中川さんとは同じ歳ということもあり、業種や規模は違っても同じ伝統産業を担う立場として、とても勉強になったようです。

「手仕事の工房などを残しつつ、現代的な事に次から次へと取り組み、色んな事を並行して進められているのが印象的でした。従業員さんのモチベーションUPに繋がる工夫や社屋の環境なども、伝統産業の世界では珍しく、思い切った事をされていて、中川さんの目指されている方向性がはっきりと見えました。それは『日本の伝統産業を元気にする』という会社のビジョンがスタッフ1人1人にしっかりと浸透しているからだと思います。トリリウムに関しても、滋賀のみんなに早速紹介しました。『made in 奈良から世界へ』といったキャッチフレーズが刺激的です。滋賀も頑張らねば...」

今回の取材では[中川政七商店]さんを通して、奈良の魅力を発見できたと思います。でもそれはほんの一部。これからも奈良にある良い物を発見し、奈良から新しい何かを発信していくリーダーとして、[中川政七商店]さんの活躍を楽しみにしたいと思います。また、私たち[graf]はまだ立ち上げて12年の新しい会社ですが、例えばもっと深く奈良の街や文化を知る勉強会やイベントなどの企画や、大阪と奈良を繋いでできる何かを、一緒に考えていきたいと思っています。

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