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grafが近畿2府4県を旅して考えるきれいなくらし

10.05.26

Chapter.1 奈良の伝統工芸や産業を大事に受け継ぐ、[中川政七商店]のもの作りの原点。

いつものように朝の8時に中之島のgrafビルに集合して出発です。
今回のメンバーは、服部さんはじめ、grafの5人と、お馴染みの滋賀・木之本の[冨田酒造]の冨田さんも参加です。まず奈良駅の近くで[中川政七商店]の広報を担当されている伊丹明日香さんと合流。

「おはようございます、伊丹さん。今日は長い1日になりそうですが、よろしくお願いします」

伊丹さん「おはようございます。こちらこそ、よろしくお願いします。どうぞ1日、奈良を楽しんでくださいね」

まずは奈良の月ヶ瀬へ。三重と京都との県境付近にある月ヶ瀬は、梅林で有名な観光地です。中央に流れる五月川の両岸に約1万3千本もの梅の樹が広がる月ヶ瀬梅渓は、日本の政府が最初に指定した名勝の一つです。取材で訪れた時期は梅の開花は終わっていましたが、渓谷のあちらこちらに桜が咲き誇っていてキレイでした。

この月ヶ瀬の村に[中川政七商店]の麻製品の原点、『奈良晒』を織る工房があります。

奈良晒の織物工場[遊工房]の表に掲げられた看板。[中川政七商店]が奈良晒の伝統を保存するために貢献していることを伝えている。

奈良晒とは古くは鎌倉時代から続く麻織物の一種で、原料となる苧麻(ちょま)の皮を干した青苧(あおそ)を紡いで糸にし、手織りした麻布の生平(きびら)を真っ白く晒したものです。 江戸時代に晒法の改良に成功すると、幕府の保護を受けて武士の裃(かみしも)や僧侶の法衣として販路が広がりました。

17世紀後半~18世紀前半に掛けての最盛期には40万疋(ひき ※1疋=2反=約1983平方メートル=19.83アール)もの生産があり、奈良のほとんどの家は機織りや、糸を紡ぐ苧績み(おうみ)など、布に携わる仕事で生計を立てていたそうです。明治維新で武士の身分が廃止されると一気に衰退してしまいますが、奈良晒の問屋だった[中川政七商店]の九代目は品質を守り続け、十代目は奈良晒製造の復興に尽力し、月ヶ瀬・田原・福住に作業場を、木津川に晒工場を建てています。

この日訪ねたのは、昔ながらの手紡ぎ手織りの製法を引き継ぐ奈良晒の織元の[遊工房]。工場長の老間清治さん、老本ヒサエさん、奈良晒の伝承教室の松田眞佐子さんが実際に実演してくれました。

伊丹さん「おはようございます。今日は朝早くからありがとうございます」

老間さん「おはようさん。わざわざ月ヶ瀬までようお越し下さいました」

工房の中には古い木製の織機や初めて見る道具がいくつも並んでいて、床は漆喰。古い建物だからと思いきや...。

老間さん「床が漆喰なのは、麻が乾いて切れてしまわないように。麻は生き物みたいに息をしているんです」

奈良晒の生産工程は大きく「苧績み(おうみ)」「織布(しょくふ)」「晒(さらし)」の3工程。しかし織るための経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を作るところから始まるので、細かい工程がいくつもあり、一通り説明をお聞きしてもなかなか理解できませんでした。 「苧績み」は、原料の青苧(おうそ)を績んで糸にすること。「績む」とは麻の繊維と繊維を細く長くつなげることです。切れないように慎重に手で撚りながら、麻の糸を作ります。

松田さん「知らない人が見ればあんまりキレイな作業じゃないんですけど、自分の唾で青苧を伸ばして、こうして撚りをかけて紡いでいくんです。地球何周分かになると聞きました。現在「苧績み」の名人はこの村に1人しかいないんですよ」

「気の遠くなるような作業ですね」

そこから「へそ巻」をして緯糸を作ります。機(はた)にセットする経糸を作る工程の方が長く、「撚りかけ」「かせかけ」をして、作る物の幅に応じて整経し、「糊付け」「もじり」などの工程を経てようやく機に掛けます。

老間さん「もじりまでの工程が、糸を引っ張ったり巻き取ったり、なかなか手間がいるんですわ」

  • この黄色い樹の皮のようなものが、原料の「青苧(おうそ)」。これが右の奈良晒の布地に生まれ変わる。
  • 原料の「青苧(おうそ)」を績んで糸にしているところ。老練の技術と時間をかけて、麻の繊維を長く繋げていきます。
  • きれいに紡がれた麻糸。古来より受け継がれた技術と伝統、それに職人さんの労苦と誠意が、この白い麻糸を生み出す。
紡いだ麻糸はこうして1本1本、丁寧に巻き取られます。細かくて手間のかかる作業です。
こうして糸の上に小豆を置くと糸が絡まない。古人の生活の知恵があちらこちらに見られます。
麻の原料の青苧を積んで糸にする苧積みの作業。慎重に手で撚りながら、長く繋げていきます。

「機を織る」という動作は、おそらく誰もが昔話などで見たことのある光景でしょう。まず老本さんがお手本として織ってくれました。「キーパタン、キーパタン」とテンポ良く、一見簡単そうに見えますが、実際に体験させてもらうと、手だけではなく足も動かさないといけないし、糸が切れてしまったりで、なかなかテンポ良くは織れず...。

「私がやったところと老本さんが織った部分、全然違う(笑)」

織り上げられた麻は「生平(きびら)」と呼ばれ、さらにいくつかの晒工程を経て、真っ白な奈良晒として仕上げられます。

松田さん「伝承教室では、今見て頂いた奈良晒の全ての工程をやっています。私も一反織ったんですけど、家事をしながらなので2年ほど掛かりました」

「すごい! でもこの工程を見たら時間が掛かるのも納得です」

「[中川政七商店]で販売されているのは茶巾とかですか?」

伊丹さん「そうですね、あとバッグやコースターなどは海外で同様に手織りされた生地を使って作っています」

奈良晒は千利休に用いられたことから、今も茶巾としての需要が高いそう。[中川政七商店]の麻は、手で紡いだ糸を使っているので一般的に使われる「番手」という質の表現ができませんが、1インチ四方(=2.54平方センチ)に経糸・緯糸が合計何本入っているかを数えた「目打ち」で品質を測ると、[中川政七商店]の場合は「目打ち」が80本以上。[粋更kisara]の一部の商品には120本を超える目の細かい生地も。一般的な麻製品が60~70本なのに比べると、数値的にもその質の高さが明らかです。

「どうしてこんなに大変な工程なのに、麻にこだわるのですか?」

伊丹さん「温かみだったり、味だったり、この製法で作られた生地にしかない良さを伝えるのが、私たちの使命なんだと思います。それにこちらの月ヶ瀬の暮らしをご覧頂いて感じられたかと思いますが、自然に囲まれていて、誇れる伝統文化があって、何て言うか、すごく豊かなんです。今は産業としては衰退してしまったけれど、この暮らしを守ろうと中川の先代が尽力した、その功績と気持ちを引き継いでいくことは、絶対にやめてはいけない大切な仕事なんです。昨年の納会では社員みんなで糸を紡いで、織って、小さな奈良晒を作りました。とても難しい作業でしたが、手仕事の苦労を体験できる、よい経験になりました」

  • こうして機織りで麻糸を織って、「生平(きびら)」と呼ばれる布地にしていきます。
  • 経糸と緯糸がこうして織り合わさって出来上がっていきます。
  • 老本ヒサエさんが機織りの実演をして魅せてくれました。一織りづつ、丁寧かつリズミカルに織っていきます。
  • 老本さんにご指導頂きながら、杉村さんも機織りにチャレンジしました。緯糸を左右にやりながら、織っていきます。
  • 冨田さんも機織りにチャレンジしてみました。実際にやってみると難しい作業で、なかなかテンポ良く織れません。

続いて向かったのは、大和茶を加工販売している[ティーポート月ヶ瀬]。
月ヶ瀬は大和茶の名産地として有名で、クルマで走っていると茶畑をよく見かけました。ならまちの[遊 中川]の本店にある[中川政七茶房]では、こちらのお茶を使っています。

月ヶ瀬では農業に従事している世帯の約半分が茶を生産しています。しかし人手不足の問題が深刻となり、2000年に農事組合法人としてスタートしたのが[ティーポート月ヶ瀬]。煎茶や番茶、かぶせ茶など、月ヶ瀬の茶農家16軒分の茶葉をこちらで加工しています。

訪れてみると、かなりの大きな工場でびっくり! 2000平方メートル以上もある工場には巨大な機械がぎっしり。早速、製造部長の畑家善也さんに工場内を案内していただきました。

「今は稼働していない時期なんですか?」

畑家さん「そうです。その年の気候にもよりますが、ここが稼働するのは、だいたい5月上旬から10月までですね」

農家から運ばれてきた茶葉を乾かす、蒸す、冷やす、揉む、といった工程が袋詰めまでオートメーション化されています。実際に茶葉を揉む機械、揉捻機を動かしてもらうと...。

「すごい! 手で揉むみたいな動き方なんですね」

畑家さん「そうですね。お茶の葉に力を加えながら、茶葉全体の水分が均一になるように、何段階かに分けて揉んで針状の形に整えていきます」

「相当広いですが、何人ぐらいで作業されてるんですか?」

畑家さん「フルオートなんで2人だけなんです」

「ええ! こんなに広いのに」

畑家さん「作業は機械がしてくれますので、モニターで管理できるんですよ」

「忙しい時期はフル稼働ですか?」

畑家さん「そうですね。摘み取られた茶葉は早めに加工してあげないといけないので、24時間動かしている時期もありますね。4月下旬にまず1番茶用の葉が刈り取られたあと、7月にもう1回刈り取られます。そして10月には秋茶、と大きく3回刈り取りはあるんです」

今年の新茶はこれからですが、ここで昨年加工された大和茶を試飲させて頂くことに。
頂いたのは新商品でもある高級煎茶の『茶港』。「ティーポート」を日本語にしたこちらのオリジナル商品です。夏は水出しでもおいしいんだそう。

「茶葉に甘みがありますね。香りもいいです」
「2煎目もまろやかですね」
「[中川政七茶房]ではなぜこちらの茶葉を?」

伊丹さん「奈良はお茶がおいしいところなので、社長も茶房の担当者も、地元の大和茶は絶対に使いたかったのだと思います。特にこちらは全国茶品評会で1等に入賞もしていて、味にも定評がありますので」

最後は茶畑にも案内してもらいました。
規則正しく四角い木が並んでいている茶畑。これはお茶を摘み取る機械に合わせて、木の高さや通路の幅なども決められているから。そして茶畑に必ずある街路灯のような背の高い扇風機。これはお茶の新芽を霜から守るための防霜ファンです。新芽は霜にやられると、もう商品にはなりません。昔はこのような機械は必要なかったのですが、近年の不安定な気候変化の問題は農業にとっては死活問題。清々しい茶畑の景色に癒されながら、いろいろ考えさせられた一時でもありました。

  • 山肌に拡がる[ティーポート月ヶ瀬]の茶畑。一番茶の刈り取りが4月下旬~5月上旬に始まります。
  • 2000平方メートル以上ある工場は、完全オートメーション化されていて、巨大な機械が並んでいます。
  • これが何段階かを経て、工場で加工された茶葉。口に入れてみると、お茶のうまみと香りが口の中に拡がります。
  • [ティーポート月ヶ瀬]オリジナルの高級煎茶『茶港』。煎茶独特のうまみと香りが調和した風味豊かなお茶です。2缶セットの箱入りで3,800円。

緑が拡がる広い茶畑で、[ティーポート月ヶ瀬]の皆さんと記念撮影。息を吸い込めば、心地良いお茶の葉の香りがします。

ティーポート月ヶ瀬

奈良市月ヶ瀬桃香野541-1
TEL/0743-92-2700
http://www.teaport.jp

次は、法隆寺の近くにある靴下製造工場の[御宮知靴下製造株式会社]へ。
あまり知られていませんが、実は奈良県は靴下の生産量が日本一です。この工場では、鹿のワンポイントが付いた靴下や、麻と綿の混紡素材で編まれた「ふんわりアームカバー」、それに靴下を靴下でないものにデザインした「くつしたはんど」シリーズなどを製造しています。

訪ねてみると非常にコンパクトな工場で、段ボールがいっぱい積まれた一軒家の奥が工場になっていました。工場の中には何十台もの機械が並んでいて、しばらく見ていると機械の下の部分からポン、と靴下がでてきます。工場長さんに「ふんわりアームカバー」を作っている機械を見せて頂きました。

「おもしろい! 靴下ってこうやって出来るんだ」
「それにしても複雑な機械やな。全くどうなってるのかが分からん」

工場長さん「女性の方なら一度はされたことがあると思いますが、原理はリリアンと一緒です。この機械で筒状に編み上げています。靴下の長さはチェーンで、風合いは使う針の本数で変わるので、1つの機械で同じ靴下を作り続けます。新しい靴下を作る場合は、またセッティングを全て変えるんです。まあこのマシンは15年ぐらい使っているので、今はもっと進化したものが出ていますが」

「ふんわりアームカバー」は、糸に麻が入っているのでシャリッとした肌ざわりが特徴。吸湿性も良く、夏のUVカットに重宝するアームカバーです。麻は靴下に使われないので、この質感を出すために針の数を調節するのが大変だったそうです。

工場長さん「通常、婦人物の靴下は220本ぐらいの針を使いますが、このアームカバーは168本。針を少なくして、やわらかい風合いにしています」

工場を見学した後に、社長の御宮知 喜久夫さんにお話を伺いました。靴下工場は、ほとんどが発注元の企業から委託された製品を製造するOEM(Original Equipment Manufacturer)の下請け企業。自社ブランドを作っている工場はほんの一部です。昭和24年操業のこちらもOEMですが、[中川政七商店]の製品を手掛けるようになってから、もの作りに対する意識が大きく変わったとか。

御宮知さん「今までは発注された製品を作っていただけでしたが、中川さんからは『こういうものができませんか?』という仕事の投げかけがありました。古い機械しかないので、工場長が相当頑張ってくれました」

「企画は[中川政七商店]、技術と製作は[御宮知靴下]。いわゆるコラボレーションですよね、中川さんと御宮知さんの工場との」

御宮知さん「そうですね。このご時世、コスト的には中国生産にどうしても勝てませんから、今ある機械を駆使して、いかに付加価値のあるものを作るかが課題です」

「そういう考えのきっかけになったのが[中川政七商店]だったのでしょうか?」

御宮知さん「その通りです。こだわりを持たれた会社なので、そのこだわりに沿った物作りをするためには、フルパワーと努力が欠かせません。できるだけイメージに近い製品を作るため、日々勉強です。例えば「くつしたはんど」のトートバッグも相当考えました」

「あ、この持ち手がシマシマの靴下のバッグですね。すごくかわいいし、持った時の感触が気持ちいいです」

御宮知さん「ありがとうございます。その持ち手の部分は、蒸気セットで形を作るために2mの長さが必要だったのですが、うちの機械では1m以上編むことができない。結局、1m+1mで繋げることで、たるみも防げて強度も増し、品質としても向上したと思います。これも、今までだったら『出来ません』と答えていたと思います」

  • 複雑な機械がいくつも並んで動き続けています。出来上がった靴下は、左下の蛇口のようなところから落ちてきます。
  • [御宮知靴下]の工場長さんから靴下の製造工程を説明して頂きました。複雑な機械がずらっと並んでいて、みんな興味津々です。
  • 「ふんわりアームカバー」(左、1,575円)。持ち手の部分が縞々の靴下で作られている「くつしたはんど」シリーズのボーダートートバッグ(9,450円)。
  • 「くつしたはんど」シリーズのバッグやポーチ、マフラー。[御宮知靴下]さんで作られている人気商品。
  • ボーダーマフラー(3,150円)。[中川政七商店]のアイデアと[御宮知靴下]の技術力が生み出したヒット商品。
  • 「くつしたはんど」シリーズのボーダーまるバッグ(6,090円)。このもち手が靴下工場で作られているなんて驚きです。
  • 靴下を使って靴下でない物にデザインした「くつしたはんど」シリーズのボーダーポーチ(2,415円)。
  • [御宮知靴下]の御宮知社長と[中川政七商店]の高山さん。発注元と下請けという関係ではなく、それを超えたパートナーです。

「なるほど。これからはそうじゃなくて『どうすれば出来るか』という発想の転換が大事と!」

御宮知さんの前向きな考えに、grafのメンバーもすっかり聞き入り、少し圧倒されるほどでした。
御宮知さんからお聞きしたお話を後で社長の中川さんに話したところ、
中川さん「良かった! 僕は日本の工芸が生き残るには、経済的に自立することと、誇りを持つこと、この2つが必要だと思っています。御宮知さんの会社の売り上げの中でうちの製品が占める割合はほんの数%ですが、今日皆さんが取材に行かれたようなこともめちゃめちゃ喜んでくれていると思います。御宮知さんに言われた言葉で印象に残っているのが、『今までは街中で、うちで作った製品だとはっきりわかるモノがなかった。でもやっと、これうちで作ってるねん、って言えるようになった』ということ。普通仕入れ先をオープンにすることは、この業界では御法度なんです。父親には叱られましたが、でも私はそれをすることで、その人達の誇りになるのであれば、やるべきだなと思うんです」。

外から見れば普通の発注先と製造元の関係ですが、実はその内側にはすごく強い絆と信頼関係が築かれていたのが、お2人の言葉から感じられ、なんだかじ~んときました。
そんな信頼関係に基づいた仕事をしたいし、信頼されて仕事をお願いされる存在になりたい、と話を聞いていたgrafの誰もが思ったはず。
そういった意味でも、とても意義のある訪問でした。

御宮知靴下製造株式会社

奈良県生駒郡斑鳩町龍田3丁目 10-10

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