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grafが近畿2府4県を旅して考えるきれいなくらし

10.02.24

Chapter.3 [飯尾醸造]家族で守り継がれる、無農薬の稲作と酒造りからできる、本物の酢造り。

1893年(明治26年)創業、117年間ずっと無農薬にこだわった古来のお酢造りを守り継いでいる[飯尾醸造]さん。

美味しいお酒を飲みながら久仁子さんと楽しい一時を過ごした後は、宮津まで移動して、お酢の老舗の[飯尾醸造]さんを訪ねました。明治26年の創業で、現在は4代目の飯尾毅さんが当主です。
[飯尾醸造]さんのお酢造りの特徴は...、と説明をお聞きすると、原料から作り方まで、どれも他のお酢屋さんやメーカーではやっていないであろうことばかりでした。つまり現在ではお酢のメーカーが原料を購入したり、お酢造りの行程を簡略化したりしているのを、[飯尾醸造]さんでは日本古来の造り方で、原料も全て自前で、作業工程も全て自社で、というやり方なのです。

昔ながらのお酢の造り方は、米から「酢もと醪(もろみ)」を醸し、そこから酢を造ります。[飯尾醸造]さんでは、自らの田んぼで原料の米から無農薬で稲作しています。春から秋は田んぼで米作り、冬になると酒蔵でお酒(酢もと醪)を造り、それを酢蔵に運んでお酢造りをする、と働くところが3カ所あるそうです。案内してくださったのは、5代目見習いの飯尾彰浩さんです。

右がご当主の4代目になられる飯尾毅さん。左はご案内頂いた5代目見習いの章浩さん。

「無農薬のお酢を造られてどれくらいなんですか?」

飯尾さん「商品化してもう41 年目です。無農薬のお酢を造るために動き始めた頃からだと48 年になります」

「その当時だと、時代に逆行していた感じですかね。きっかけは何だったんですか?」

飯尾さん「うちの3代目が始めたんですが、やはり近くの田や水路でフナやドジョウなどの生き物が死んでいるのを見たり、いなくなったことに気付いたのがきっかけです。生き物にとって良くない農薬が人間に良い訳がない、って。それで地元の宮津の農家さんに農薬を使わないようにお願いし始めたそうです。漁港で穫れた魚を農家の奥さんに差し入れして、2年掛けて口説いたそうです(笑)。昭和30 年代は高度成長期の時代で、無農薬とか環境という考え方が全くなかった時代ですから、説得するのは大変だったらしいです」

「田んぼはこの近くですか?」

飯尾さん「クルマで1時間弱のところにある、宮津の棚田です。ずっと契約農家さんに作ってもらっていたのですが、農家の方々が高齢化して作れなくなったりという事情もあって、8年前から自分たちで稲作を始めました。当時、契約していた棚田の風景は本当にきれいだったんですよ。だからその景観を守りたかった、というのも自ら稲作を始めた理由の1つです」

冨田さん「お米の品種は何を作っていらっしゃるんですか?日本酒は販売はされてないんですよね?」

飯尾さん「麹用に『五百万石』、あとは『コシヒカリ』です。お酒は法律の関係上、販売できないんですが、お米は通販のお客さんや生協で販売させて頂いています。お米そのものも、食べてもとてもおいしいんです。せっかく作ったのに余らすのももったいないので...」

なんとこの棚田で作った『無農薬コシヒカリ』は、東京のお米屋さんで約2000 種類のお米を集めて分析したところ、上から3番目の食味値93 点の評価だったそうです。

「お米作りも日本酒造りも、それにもちろんお酢造りも、となると年中忙しいですね」

飯尾さん「先代が『おいしい酢はおいしいお米から』という強い信念を持っていた者でしたから、このやり方しか知らないのが良かったんだと思います。麹から造っているのも、仕込んだお酒を販売せずにお酢にしているのも、おそらく全国でうちだけだと思います」

「すごいなぁ」(一同感心)

続いてお酢を造っている現場を案内していただきました。
蔵を見学される方のために、壁に棚田や酒蔵の写真も貼られていて、とても分かりなっています。蔵に一歩入ると、ふわ~っとお酢のいい香りが。決してツーンとくる感じではありません。

飯尾さん「こちらが醗酵の蔵です。日本で販売されているお酢の90%以上は醗酵期間が1日から2日。コンプレッサーで空気を送り込んで、培養に近い状態で作るので、1日でできるんです。それに対してうちの醗酵は100 日から120 日とおよそ100 倍掛かります。表面だけで醗酵させているので時間が掛かるんです」

「へー、そんなに違うんですね。やっぱりまろやかになるんですか?」

  • 蒸した酒米に麹菌を振りかけて、丸2日かけて麹を造ります。現在も蔵人さんの手作業による仕込みが行われています。
  • 蒸らしたお米から酢もと醪を醸します。麹から酒母づくり、醪の仕込みまで約100日の間、泊まり込みの作業が続きます。
  • 左右に並ぶのが、酢もと醪の醸造タンク。タンクの中には、上層から水と醪と種酢が仕込まれています。
  • 発酵中のタンクから活発な酢酸菌膜を掬い上げて浮かべると、3~5日でタンクの表面全体を酢酸菌膜が覆います。この表面で酢酸発酵が行われています。

飯尾さん「そうです。りんごなどの果実酢は、米を使わずに果肉そのもので果実酒から造ります。
今流行っている果実酢は、ほとんどが後で果汁を足した甘いものなので、全く別物ですね。紅芋や黒豆などでんぷん質のものは米麹を使ってお酒にします」

「いろんな種類のお酢を造られているので、その切り替えが大変じゃないですか?」

飯尾さん「それが実は楽しいんですよ。収穫の喜びや季節感が感じられるので。素材を作る大変さや有り難さも、こうやっていろいろ造っているからこそ、分かるんだと思います」

最後に案内してもらったのは熟成蔵。飯尾さんのお酢は醗酵させてすぐ出荷するではなく、1~2年、長いもので3年、この蔵で熟成させてから商品として出荷し販売されます。その熟成の仕方にもまた、おいしさのための一手間が。

飯尾さん「普通、熟成って言うとただ寝かせておくというイメージだと思うんですが、うちの熟成はいわゆるワインでいうデキャンタージュを繰り返すんです。10 回以上、タンクからタンクへ移し替えます。そうして何度も空気に触れさせることで、よりまろやかな風味に仕上がります」

「何て言うか、全てにおいてスゴすぎます」

それは本当に正直な感想で、造り方や材料に対するこだわりはもちろん、こうやってお酢を造っている現場をオープンにしているところにも、[飯尾醸造]さんのお酢造りに対する真面目さを感じました。

  • お酒を搾る「搾り漕(しぼりぶね)」という道具。袋にドブロク状のお酒を入れて、重しを乗せて人力で圧を掛けていくシンプルな構造。これで搾った酒に酢と水を加え、タンクで発酵させる。
  • ここはお酢を貯蔵する貯蔵庫。大きな貯蔵タンクが幾つも並んでいます。貯蔵期間によって味わいも異なってきます。

見学を終えた後はお酢のテイスティングです。お米と原料のうま味がいっぱいのお酢にみんなビックリです。

お酢造りの行程を見学させて頂いた後は、お酢のティスティングをさせて頂きました。

まず最初に一般の米酢を飲んでみました。そのままでは酸味が強くて相当キツい味。続いて『純米富士酢』(630 円/500ml)を頂いてみると...

「あー、全然違いますね。カッとお酢の酸味が来ない」

さらに『富士酢プレミアム』(1,260 円/500ml)をいただくと、これもまた明らかに違いが。

「ぜんっぜん違う。うま味を感じます!」
「これは普通に飲める。お米の量でこんなに差が出るもんですか?」

お米の量や造り方によって香りや味わいが異なります。ウイスキーにも似て、香りや味わい、喉ごしと色んな楽しみが。

飯尾さん「2つ違うところがありまして。1つは先程ご説明したとおり、たっぷりのお米を使っていること。後は何て言えばいいのか、手間のかかる造り方をしています。
実はこのプレミアムを造ったきっかけが、『富士酢』の香りがダメという方がいらっしゃったことで。昔のお酢のシンプルなツンとしただけの香りに慣れた年配の方とか。だから仕込みを何層にもして、香りをマスキングし、他の香りを被せるという造り方をしています。でも原料は米しか使えないので...」

「ブレンドですか?」

飯尾さん「まぁ、そんな感じです。造り方を変えたお酢をブレンドするイメージ」

「ウイスキーでいうシングルモルトがノーマルの『富士酢』で、プレミアムはブレンデッドウイスキーという感じですね」

冨田さん「日本酒までの状態は一緒ですか?」

飯尾さん「そうです。酢酸醗酵で変えています」

「深いなぁ~」

飯尾さん「実はこの『富士酢プレミアム』が私のデビュー作でして...」

「おお~」

左から、林檎酢、赤わいん酢、梨酢、石榴酢、無花果酢、黒豆酢、紅芋酢、梅べに酢、梅くろ酢。それぞれに素材の旨味が活きた味わいです。

『紅芋酢』(577 円/120ml)は、最近臨床試験で予想を上回る結果が出たという飯尾さんイチオシのお酢。「アントシアニン」というポリフェノールが豊富で動脈硬化の予防にも効果が期待できるとか。また、実際に4代目当主の飯尾毅さんが毎日飲んだら、1年弱で内蔵脂肪が1/3 も減ったという検査結果も。[飯尾醸造]では全員が毎朝この『紅芋酢』を飲んでから仕事を始めるそうです。

「芋を蒸した匂いがする。いい香り」

飯尾さん「ハチミツを入れた『紅芋酢』はもっと飲みやすいですよ。僕は出張の時は必ずこの『紅芋酢』を持って行って、お酒を飲む時に、水にこれを入れてチェイサー代わりに飲んだりしています。肝機能を高める効果が高いので、お酒を飲まれる方にもおすすめですよ」

[飯尾醸造]さんでは、果実酢も近年の流行りのずっと前から商品化されています。
中でも『にごり林檎酢』(840 円/120ml)は、青森の木村秋則さんの「奇跡のりんご」を100%使ったお酢。肥料も農薬も使用せず自然のままに育てられたりんごを、シードルに仕込んでからお酢にしたものです。

「香りがいいですね。これはどんな料理に?」

飯尾さん「サラダのドレッシングとか。トマトにさっと和えてもらうだけでも、オリーブオイルや塩が無くてもすごくおいしいです。あと料理にはこれ、『富士すのもの酢』(357 円/150ml)がオススメです」

「うわっ。これだけで飲んでも、めちゃくちゃおいしい!」

左から、すし酢、ゆずぽん酢、さんばい酢、すのもの酢。柚子や昆布、かつおダシを自前で混ぜて造られています。

飯尾さん「一般的には化学調味料やエキスを入れて造られるんですが、うちのお酢は、利尻の昆布と枕崎のかつお節で一番だしを、うちでちゃんとひいてます。200Lもの大鍋で作るんです。保存料も一切入れていませんが、お酢なので日持ちもします」

次に飲んだ『富士ゆずぽん酢』(819 円/360ml)もまた、全員がうなりました。通常の5~6倍の果汁が入っており、無農薬の柚子だけでなく、完熟のかぼすもブレンドされていて、柑橘系の香りが豊かです。他にも無農薬の青梅を1年半漬け込む『梅べにす』(840 円/120ml)や『梅くろす』(840 円/120ml)は、女性陣に大人気でした。

飯尾さん「お酢でこれだけ盛り上がって頂けるとは、うれしいです(笑)」

「確かお母様と妹さんがお酢の料理レシピ本(『京都のお酢屋のお酢レシピ』アスキー刊)も出されてましたよね?」

飯尾さん「そうですね、妹は結婚して今東京に住んでいるんですが、向こうでレシピを考えて、たまに帰省してはお袋とああやこうや言って料理を作ってます。うちのHPを作ったのも妹なんですよ」

「家族でしっかり役割分担されてるんですね」

飯尾さん「そうですね、なんかうまいことやってます。正社員12 名の小さい会社なんで、特に営業担当もおりませんし、商品開発は父か僕がやっていて、パッケージのデザインや文字は母がしています。この規模なんで造れる量も限られているので、売れ過ぎても困るし、もちろん売れなくても困る。ただ、いいものを丁寧に造っていきたい、みんなそう思ってやってるんだと思います」

「いやー、すごい!!」

終始笑い声と、この「すごい」という言葉に尽きる取材でした。材料も造り方もこだわりの固まりなんだけど、それを40年以上、今に至るまで当たり前にやられてきたので、全く嫌味がないというか、自然体。とにかく真っ直ぐにお酢造りに取り組んでいる姿は、本当に清々しく、楽しく、勉強にもなった訪問でした。

向井さんや飯尾さんのもの作りに対する愛情とこだわりから生まれたお酒とお酢を買い込んで、みんなたくさんのお土産と共に丹後の地を後にしました。

今回もまたまた長い一日でしたが、舟屋の加藤さんご夫妻、[向井酒造]の久仁子さん姉妹、[飯尾醸造]の飯尾さんのご家族や蔵人さんたち、それぞれくらしぶりやその営みは違うけれど、共通して流れる家族愛と郷土愛を熱く感じた1日でした。

当主の飯尾毅さん、5代目見習いの章浩さん親子と。お米作りから稲作にこだわったお酢造りは、飯尾さんのご家族と蔵人さんたちの信念と情熱と、家族愛によって受け継がれていきます。

grafからのメッセージ

grafのメンバーは初めて訪れた伊根。今回もまた素敵な出会いがありました。

まず最初訪れた舟屋の加藤さんご夫婦のくらし。
世界的にも珍しい舟屋ですが、「(漁師の数は減ってしまったけれど、)舟屋は今もこれからも変わらず、ずっとここにあります」という君枝さんの言葉が心に残りました。
加藤さんご夫妻のように、舟屋の営みを守り継いでいく人たちがいるからこそ、今回、私たちも訪れることができました。私たちが直接的に舟屋を守ることはできないけれど、こうして皆さんに伝えていくこともまた、大切なのかなと思いました。

建物としての舟屋造りも興味深いものでした。
舟屋はくらしのためにつくられた合理的な家だと思います。船のガレージの部分はまるで秘密基地みたい! 間口が狭くて天井高も低く、壁面は漁のための収納スペースになっていて、一見狭く感じるのですが、間口方向に海が広がっているというだけで、圧迫感を感じません。玄関入ってすぐの土間のキッチンも、捕れた魚をすぐに捌くのに機能的だと思いました。
お父さんに捌いてい頂いたイカ、身が透明で歯ごたえがあって、とてもおいしかったです。加藤さんご夫婦には、いつまでも健康で仲睦まじく、この舟屋の暮らしを続けてほしいな、と思います。

[向井酒造]さんでは、女性の杜氏である久仁子さんの明るい強烈なキャラに圧倒されました! まさに「伊根満開」(笑)。でもお話を伺っているうちに、大学時代から将来のために醸造の技術を学び、故郷に帰ってからも杜氏さんのネットワークを活用して、家業を守り受け継いでいる、そのたくましい姿に心を打たれました。しかも酒蔵でのお酒造りはほとんど妹さんとお2人で。日本海の厳しい寒さの中で、力仕事だろうし、大変だろうなと思いました。

試飲させて頂いたお酒はどれもおいしかったです。お酒の開発は、久仁子さんがお料理との相性も考えられて造られているのかな、とも思いました。今後は、ご結婚されたばかりの旦那様と一緒に造るお酒が楽しみです。また日本酒が好きになりました。
(この日、初めて日本酒を飲んで以来、ハマッてしまったスタッフも(笑))

久仁子さんが[なぎさ鮨]で歌って聞かせてくれた伊根の民謡、おいしかったお酒、伊根湾の風景がひとくくりになって想い出されます。久仁子さんは本当に伊根が大好きなんだなと、ひしひしと伝わってきました。地元を愛し、家族を大切にする久仁子さんのことをとても魅力的に感じました。また久仁子さんに、伊根のいいところをたくさん教えてもらいたいです。

最後に訪れた[飯尾醸造]さん。
原料からこだわり抜き、無農薬でのお米からお酒造り、そしてお酢造りまで、古来の手作りの製法を守り継ぎ、一切手を抜かずに徹底しているところにまた感動しました。
きれいで分かりやすい工場もとても勉強になりました。まさにプロのなせる業。
大手メーカーとは違って、自分たちのできること、やるべきことをしっかり考えながら、誠実にお酢造りに取り組まれている姿勢や、ご家族や蔵人さんのそれぞれが自分の役割を担って取り組んでいらっしゃるところも素晴らしいと思いました。

そして、そうして手間暇を惜しまずに情熱を注いだお酢はどれも本当においしく、当日買い求めたお酢は色んなものに使っています。飯尾さんのお酢でおいしい食事を作って味わうだけでなく、grafで飯尾さんのお酢を使ったお料理会なども企画してみたいと思っています。

今回、伊根と宮津を訪ねて感じたのは、この地ならではのくらしや文化、風土を皆さんそれぞれが愛し、しっかり受け継がれているということ。都会で暮らす私たちは利便性を一番に考えるけれど、進歩する反面、失っていくものには気付かず...。伊根や宮津での細やかで手間暇掛けた仕事や皆さんのくらしを拝見したら、我々が忘れかけていた何かを想い出させてくれました。これを機にもっと良いもの造りをしていきたいと思いました。

そして皆さんの家族愛にも心打たれました。それぞれを想い合い、助け合いながら仕事し、くらしていらっしゃる皆さんの姿をお手本に、私も家族を大切に、自分なりの良いくらしを目指してがんばろう!と元気をもらいました。

お腹も気持ちもいっぱいになった一日。
伊根と宮津の皆さん、ありがとうございました!

[向井酒造]の久仁子さん、愛らしいお母さん、姉思いの妹さんと。伊根の地酒は家族愛と郷土愛に育まれて造られていました。

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