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grafが近畿2府4県を旅して考えるきれいなくらし

10.02.24

chapter.2 姉妹愛と郷土愛が育む、女性の杜氏の向井久仁子さんが酒造りする[向井酒造]の地酒。

江戸中期の1754年(宝暦4年)に創業の[向井酒造]さんの歴史漂う佇まい。中庭から伸びた松は樹齢200年を超えるそうです。

続いて訪ねたのは、伊根の地酒『ええにょぼ』や『京の春』を造っている地元の酒蔵[向井酒造]。こちらは全国的にもまだ少ない女性杜氏の蔵としても知られています。創業は江戸中期の1754 年。杜氏の向井久仁子さんは、実家の酒造りを継ぐために東京農業大学の醸造学科へ進学、卒業後22歳で家に帰って、23歳から杜氏に。今年で12年目になるそうです。

[向井酒造]の仕込み蔵から見える伊根湾の景観。伊根の地酒は、恵みの海の空気を取り込んで造られています。

[向井酒造]は比較的、小さい酒蔵ですが、お酒の種類が多いのも特徴で、古代米で造る果実酒のような色と味わいの『伊根満開』や、毎年売り切れるにごり酒、醗酵中に出る酵母の炭酸ガスを閉じ込めた甘酸っぱい『丹後スカッシュ』など、大学で新酒の開発も学んでいた久仁子さんのオリジナルのお酒がたくさん。

また、お酒を作っている蔵のすぐ裏が海で、船の上から直接お酒が買えるのも伊根らしくてユニークです。ヨットやシーカヤックをしている人の間でも有名で、岩手や沖縄からわざわざ船を積んで来た人もいたとか。そんな海からお酒を買いに来る人のために、浮き桟橋まで作ってしまったというから驚きです(現在は木が腐食してきて使用中止ですが...)。

久仁子さんと冨田さんとは酒蔵仲間のお知り合いですが、冨田さんも[向井酒造]を訪問するのは初めて。まずは簡単に現在ちょうど仕込み中のお酒造りの様子を見学させてもらいました。

冨田さん「久仁子さん、お久しぶりです。今日は忙しいところ、お引き受け頂いてありがとうございます!」

久仁子さん「お久しぶりです。どうぞどうぞお待ちしておりました」

「よろしくお願いします! 大人数ですいません」

久仁子さん「では早速、酒蔵を見ますか? めちゃ狭いんですけど」

まずは仕込み蔵。上を見上げるとなんだか大きな機械がいくつもあります。

久仁子さん「うちは仕込みの形が珍しいってよく言われます。機械が3階建てになっているんです。上までお米が吸い上げられるようになっていて、2階で水切りして、そのまま次の日にコンベアに落として、その釜に落ちるようになっています。

  • 杉玉の下にあるのは、伊根に伝わる『わーわーさん』という、藁で造られた獅子の厄除けの人形。
  • 仕込み蔵に並ぶ発酵タンク。仕込み蔵は3階建ての珍しい構造。タンクの中ではコポコポと発酵が進んでいます。

冨田さん「めちゃくちゃコンパクトですね。これ、1人でやってはるんですか?」

久仁子さん「頑張ったらここまでは1人でできます。でも妹が帰って来てくれてからは手伝ってもらってます」

「妹さんも酒造りされるんですね」

久仁子さん「そうなんです。今は妹とほぼ2人で酒造りをしています。力仕事などはバイトの男子に頼んでますけど。でも妹も昨年結婚したので、手伝ってくれるのは今年で最後なんです。東京に住むので、関東方面の営業は頼めるようになるんですけどね」

「ええー、それは来年から大変じゃあないですか!」

久仁子さん「実は私も結婚しまして~。旦那は今、能勢の[秋鹿酒造]さんで修業していて、もしかしたらですが、来年から手伝ってもらえるかも?」

「えええー! おめでとうございます!」

そんなおめでたい話も飛び出しながら、次は麹室へ。麹室では麹の乾燥を防ぐため、なんとゴアテックスの生地が掛けられていました。

冨田さん「あ、ゴアテックスですね。いいですか?」

久仁子さん「すごくいいですよ。私もお世話になってる蔵のおやっさんから聞いて、高いけど思い切って使ってみたんですが、効果絶大です」

仕込み蔵の一角では、妹さんが酵母を増やすための酒母造りの真っ最中です。

冨田さん「あ、『生もと』やってるんですね」

久仁子さん「そうなんです。なんでやり始めたかというと、銘柄を見ずに試飲をしていたら、私がおいしいと感じたお酒が『生もと』ばっかりやったんですよ。これはうちでもやらんといかんかなぁ、と思って」

『生もと』とは最も古くから続く酒母造りの製法で、乳酸菌を空気中から取り込んで乳酸を作らせ、抗菌するというもの。現在では、乳酸を人工的に加える『速醸系』と呼ばれる製法がほとんど一般的。『生もと』の製法だと酒母になるまで約1ヶ月要するので手間も時間も掛かるけれど、しっかりとしたうま味のお酒になるんだそう。京都では久仁子さんのように女性の杜氏がいる[招徳酒造]でも、この製法でのお酒造りにチャレンジしています。

冨田さん「『生もと』のやり方はどこかに習いに行ったんですか? いつからやってるんですか?」

久仁子さん「5年ぐらい前からです。大学では1回しか習っていなかったので、岡山の但馬の杜氏のおやっさんにFAXでやり方を教えてもらったんです」

  • 蒸したお米から麹を醸す麹室。蒸気が立ち籠めています。麹の乾燥を防ぐため、ゴアテックスの生地を使っているそうです(左)。
  • 酒母造りの作業を手伝っていた、妹の聡子さん。「いつも明るい姉のことは尊敬しています」とお話しされました。
  • 酒母造り中の酒母タンクの中。丹念に手作業で櫂をかき混ぜると、空気中の乳酸菌を取り込んでまろやかに。

久仁子さんと妹の聡子さん。伊根の銘酒は仲睦まじいお2人の姉妹愛で育まれています。

久仁子さんの話の中で、よく「○○のおやっさん」が出て来ます。外で修業の経験がない久仁子さんは、いろんな杜氏さんに来てもらって仕込みを見てもらっていたそうです。

久仁子さん「全国の杜氏さんに本当によく、お世話になっています」

「杜氏さんのネットワークがあるんですね」

久仁子さん「それを作るために12 年間真剣にやってきたんで。いずれは12 歳下の弟がここを継ぐんですけど、弟が帰って来た時に少しでも楽な形で渡したいなと思って。弟は他の酒蔵さんで修業しているんですが、酒造りではなく経営をする予定です。日本酒の業界は今厳しいので、私がデンと酒造りを手伝おうと思っていたら、ラッキーにも私にもええ人が見つかって...(笑)」

「ええ話やなぁ!」

久仁子さん「これからも何とか残していこうと思ったら、家族でやらないといけないほど小ちゃい酒造なので」

「久仁ちゃんのこれからが楽しみやなぁ!」

発酵中に出る炭酸ガスを閉じ込めた『丹後スカッシュ』。甘酸っぱいマッコリ(or白ワイン)のようなお酒です。

酒造りの様子を見学させて頂いた後は、お待ちかね! お酒を試飲させて頂きました。

まずは『丹後スカッシュ』(1,680 円/720ml)。醗酵中に出る炭酸ガスを閉じ込めた、アルコール分11%の甘酸っぱいカルピスソーダのようなお酒です。
酵母が生きているので、少しずつフタを開けないとお酒が吹き出すことも。

冨田さん「それは熱処理していないんですか?」

久仁子さん「していないです。これはもう少し甘い時がめっちゃおいしくて。でも醗酵が続いているので、詰める時からどんどん辛くなって。今はちょっと辛口。米のビールみたいな感じ」

冨田さん「いろいろやってはりますねー」

久仁子さん「大学で新酒の開発をやっていたので。松の木から酵母分離して『影向(ようごう)の松の酵母仕込み』とか、『天然酵母仕込み』はよくやりましたね。今年は『ライスワイン』っていうのを造ってます。これは昔先輩が作っていたんですけど、事情があってうちで造ることになったんです。玄米に近いくらいのお米で仕込むと、一年寝かしたら香りがワインみたいになるんです。新しく造って売れたやつは残して、売れんやつは廃盤で、みたいな感じでいろいろやってます」。

「韓国のマッコリみたい。おいしい!」

久仁子さん「マッコリより白ワインみたいな感じかな。こっちのにごり酒がドロッとしているので、スカッシュはシャバシャバにしたんです。これもこうして少しずつ空気を抜いておくほうが、ガスがピリピリしたものよりもおいしいんですけど...」
と、久仁子さんがペットボトルのフタを緩めると、またシュワシュワッと泡が出てきました。

「おお~(驚)」

久仁子さん「開け方とか、いろいろ難点がありますが...」

(一同爆笑)

「これは夏にキーンと冷やして飲んだら最高やなぁ」

久仁子さん「そうそう、何に合うかいろいろ試したら、これ意外と魚に合うんですよ」

試飲させて頂いた[向井酒造]のお酒。左から『ええにょぼ』『京の春』『京の春 しぼりたて生原酒』『美穂久仁』『竹の露 にごり酒』。

続いて『伊根満開』(1,680 円/720ml)。赤米で仕込んだ果実酒のような甘い味わいで、色もほんのりピンクです。原料は、伊根町で特別栽培した古代米(赤米)と、同じく伊根町産の酒造好適米『五百万石』、そして伊根町の湧き水のみです。

久仁子さん「私の卒論が、この赤米のお酒と、お米を煎って仕込む『焙煎仕込み』だったんです。でもそっちは造るのが大変で。結構人気あったんですけど廃盤にしました。これは『伊根満開』です、どうぞ飲んでみて下さい」

「あ、甘酸っぱい。中国の紹興酒みたい」

久仁子さん「酸がないと色が出ないので、焼酎麹で酸度を上げてます」

「飲みやすいけど、あとでめっちゃきますね~。飲み過ぎるとヤバい(笑)」

久仁子さん「私のオリジナルのお酒では、これはロングセラー。口コミで結構広げてもらって。でも漁師さんにはどうなんだろうと思っていたら、おじいさんが『飲みええわぁ』って、老人会の集いに持って行ってくれました」

次の『美穂久仁』(2,100円/720ml)は、久仁子さんの東京農業大学時代の親友とのコラボレーションが実現した純米吟醸酒。茨城県坂東市の耕人である山崎美穂さんが作った有機米「美山錦」を使って久仁子さんが造りました。

久仁子さん「大学時代に、いつか美穂の作った米でお酒作れたらいいねー、って言ってたんです。そしたら一昨年『JAS取ったからやらへんか?』って電話があって」

「昔の夢が形になったんですね。すごい!」

冨田さん「めちゃええお米使ってはりますね。これは高いはず」

久仁子さん「はい、そうなんです。でもめちゃめちゃいいんですよ、ホントに」

冨田さん「あー、これはおいしいですね。しっかりした風味と味」

久仁子さん「ありがとうございます。冷やで料理と合うお酒です。酒好きにウケてます」

「酒好きの女子2人が考えて造ったお酒って、かっこええなぁ」

『京の春』は、[向井酒造]の看板ともいえるお酒。『ひやおろし』(1,680円/720ml)と『しぼりたて生原酒』(1,680円/720ml)を試飲させて頂きました。

久仁子さん「こっちは『ひやおろし』なんで、ちょっと生っぽい感じ」

「おいしい、みずみずしいです」

久仁子さん「これはその原酒」

冨田さん「ちょっと重みがある。これもおいしいです。この米は『祝(京都祝米)』でしたっけ?」

久仁子さん「そうです。『京の春』で生もとを造っているんですが、『祝』は何を仕込んでも甘い。そして高い。チョウさんが来たら祝米を作ってもらおうと思って」

「チョウさんって旦那さんのこと?」

久仁子さん「そうですそうです」

最後は『ええにょぼ』(1,890円/720ml)。これは'93 年に放映されていたNHK の連続テレビ小説にちなんで造られたお酒です。純米吟醸はオーソドックスな軽いタイプのお酒。
お米の味を楽しむなら、冷やかぬる燗がおすすめ。

久仁子さん「『ええにょぼ』はここが連ドラのロケ地になった時に、父があわてて商標を登録したんです。まー、びっくりするくらい売れたらしいですけど」

「冨田さんのとこも、滋賀に大河ドラマがくるから造らなあかんのちゃいますか?」

冨田さん「浅井長政の三女の話(※2011 年放映予定のNHK大河ドラマ『江~姫達の戦国』。近江国小谷城主・浅井長政と織田信長の妹・お市の方の三女として生まれた江の物語)ですよね。生まれたのは湖北なんですけど物語が進むと舞台は別のとこになるんですわ(笑)」

最後にみんなそれぞれ、お気に入りの日本酒をお土産に大人買いしました。

試飲していい気分に盛り上がったまま、久仁子さんが通う[なぎさ鮨]でお昼ご飯をご一緒することに。久仁子さんの一押しは鯖寿司とへしこ。肉厚の鯖がドンと贅沢に乗った鯖寿司はあっさりめで、何個でも食べられるおいしさ。へしこは、鯖を米ぬかと塩で漬け込んだ保存食で、伊根では日常的に食べられている郷土料理です。この連載の初回で冨田さんの[冨田酒造]のある木之本を訪れた際に、余呉湖の[徳山鮓]で頂いた"熟鮨(なれずし)"と同じ発酵食品。濃厚なうま味と塩辛さが日本酒に合うこと! もちろんお酒は[向井酒造]のお酒を熱燗で。すっかり久仁子さんのキャラクターと美味しい燗酒にヤラれてしまったメンバーとの話は尽きることなく、お酒造りの話や久仁子さんのスピード婚ののろけ話を聞きながら、昼間からお酒が進む進む...。

ここで「整いました!」
「向井酒造さんの新酒を飲んだ時」と掛けまして、「運命の出会い」と解きます。
その心は「少しずつ熱く盛り上がっていきます」

最後は久仁子さんの郷土愛溢れる伊根の民謡に胸が熱くなって...。たまたま[なぎさ鮨]に居合わせた地元に方々とも仲良くなって、伊根の再訪を誓いつつ、お別れしました。

ほろ酔い気分で「もう1つ、整いました」。
「久仁子さんと伊根の人々」と掛けまして、
「初恋の人」と解きます。
その心は「初めてなのに別れがたい人です」

お後がよろしいようで...。

  • 久仁子さんにご近所で馴染みの[なぎさ鮨]さんに連れて行ってもらいました。
  • 肉厚の鯖が乗った鯖寿司。ボリューム満点な割にあっさりとしていて、何個でも食べられそうです。
  • 新鮮な魚にみんなかぶりつきです。熱燗のお酒が進む進む。
  • たまたま[なぎさ鮨]のカウンターで飲んでいた顔見知りと一緒に。陽気な久仁子さんは地元のアイドルです。

向井酒造株式会社

京都府与謝郡伊根町字平田67
TEL/0772-32-0003
http://kuramoto-mukai.jp/

なぎさ鮨

京都府与謝郡伊根町字平田563
0772-32-0285
11:00~21:00
不定休

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