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grafが近畿2府4県を旅して考えるきれいなくらし

10.01.20

Chapter.2  能の装束やすり足を体験。

次に、能には欠かせない能面について教えていただきました。
能はこの『おもて』と呼ばれる能面を顔にかけて行う仮面劇ですが、能の世界ではこの能面こそが真実の顔で、素顔の役は『直面(ひためん)』と呼びます。

その種類は、神聖な儀式で使われる『翁(おきな)面』、老人系の『尉(じょう)面』、男面、女面、鬼や天狗を現す『鬼神(きしん)』、そして『怨霊』などの種類に分かれていて、全部で200 種類以上あると言われています。その中から実際に舞台で使う女面を見せていただきました

能面をずらっと並べて、その一つ一つについてご説明頂きました。
男面。女性の面に比べると、男面は表情が険しい。
鬼の能面。『鬼神』と言われる種類の能面の一つ。

山本さん「『小面(こおもて)』は女面の中で一番若い10 代の女性の面。小面の小は小さいという意味ではなく、かわいいという意味です。こっちは20 代の『若女(わかおんな)』。比べると小面の方がポチャッとしています。あと髪の毛のラインも小面は乱れなく真っ直ぐだけど、若女は眉のところでブロックされています」

「髪型まで何か意味があるんですか?」

山本さん「あるんです。髪の毛というのは、女の人の心模様を表しています。真っ直ぐの10 代は純粋。20 代のこっちは少し乱れています」

『小面』と言われる、10代の女性の能面。ポチャッとかわいい印象です。
こちらは『若女』と言われる、20代の女性の能面。『小面』と比べると、大人びて見えます。
女性の能面でも10代(右)のものと20代(左)のものでは表情や陰影が微妙に異なります。

左から『小面』『若女』『深井』『姥』と齢を重ねていく女面。表情に陰影が出て、痩せ疲れて、年老いていきます。

さらに30 代の面、『深井(ふかい)』になると、一気に老けた印象に。

山本さん「30 代の女性の方はこれを見られるとちょっとショックでしょうが、これは人生のいろいろを経験した母親の顔なんです。子育てや薪割りや水汲み、ぞうきん掛けなど、昔の母親はとても忙しい。今は家電などの進歩で家事が楽になりましたけどね(笑)。昔の30代の女性はこんな痩せて疲れた感じでした。さらに『姥(うば)』になると、もっとおばあさんです。女の人はこれだけ変わっていくんですよ」

女性の嫉妬や怨念、嘆き、悲しみが表れた『般若』の能面。

最後に見せてもらったのは、女性の嫉妬、怨念、悲しみ、嘆きをひとつの面に融合した『般若(はんにゃ)』。見開いた目、ジェラシーが怒りとなってはえた牙、爆発してはえた角にぐちゃぐちゃの髪、と迫力満点!
『道成寺』という大曲で、最後に鐘の中から出てくる執念まみれの白拍子という女性もこの面です。この面の名前に関しては、サンスクリット語で「知恵」という意味からという説と、般若坊という人が創作したからという2つの説があるそうです。

能面はかぶるとは言わず"掛ける"と言います。「能面のような」と無表情の代名詞に使われますが、無表情ではありません。能面の角度を下向きにすると、悩んでいたり、辛そうな表情に見えます。逆に上向きにすると、嬉しそうにも、遠くを見ているようにも見えます。

山本さん「これで、(低い声でゆっくりと)『あーらーかなしや~』、(少し高い声で)『あーらーうれしや~』と言うんです。外国人は『うれしい』『悲しい』という言葉は分からなくても、こういうトーンで感じてもらえる。でも日本人はただ言葉を分かろう分かろうとするから、わざとハードルを高くしてしまっているんです」

「この面は何でできているんですか? これは消耗品というわけではないですよね?」

山本さん「檜に漆を塗っています。同じ種類の面でも作者によって可能な範囲で表現をしているので、同じ面は2つとありません。これは消耗品というか、室町時代の物でも未だに現役のものもありますからね。観世の御宗家には鎌倉時代の能面もありますよ。それを持って大阪に来られることも普通にあります」

「鎌倉時代のものも現役で使っているってすごいですね。博物館とかに飾られてそうなのに」

川西さんが能面を掛けてみました。面を掛けると、2つの穴が1つになり、視界が1点だけになります。

実際に能面を掛けさせてもらいました。小さい穴が目元に2つあるだけですが、ちゃんと掛けると穴は1つになって見えます。不必要な光は入ってこないので、視界はクリアですが、舞台では距離感が難しい。だから距離感を計るためにも舞台には柱が必要なんだそうです。能舞台には全て何か意味や理由があります。非常に哲学的です。

最後に、舞台で装束を着付けてもらう体験もしました。
扇子や手ぬぐいのデザインを担当した横山さんが、女性の装束を着付けてもらって変身します。
まずは髪を結うところから。といってももちろんカツラですが、能では『鬘(かずら)』と言います。頭の真ん中から左右に分けて付けられ、後ろで一つに束ねられました。

山本さん「これは人間の髪ではなく馬のしっぽの毛です。鬘は毎回つけてから、このように何種類かの決まった髪型に結います」

『鬘(かずら)』と言うカツラの毛に竹櫛を通してまとめます。
鬘をこんな風に紐で結わえて、後ろにまとめます。
襦袢を着終えました。上背がある横山さん、衣裳が映えます。

打掛を羽織れば、艶やかな印象に。髭がなければ女性に見えるかも!?

続いて装束を着付けてもらいます。横山さんはうつむき加減で立っているだけで、山本さんとお手伝い方の2人が、手際良く着付けていきます。あざやかなオレンジ色系の、男性が羽織っても引き摺りそうなほど大きな着物ですが、コンパクトにまとめらました。最後に若女の能面をかけて、できあがり!

山本さん「これだけ大きい着物の余分なところを全部お腹の部分にまとめて着ているんです。小面や若女の能面の場合は赤系統の着物です」

「面をかけると一気に変わりますね」
「大きい女やなぁ(笑)」
「下が見えないです。あまり足が開けませんね」

立派な能役者の出来上がりです。上背があるので、衣裳がとても映えます。

山本さん「すり足で進むと、なんとなく床の傷みとかが分かるでしょ。滑ったりすると具合が悪いので、裸足やストッキングで舞台に上がるのをご遠慮いただいているんです。では基本的な構えを。まず手足をだらんとさせて立って下さい。つま先は揃えて、カカトを割る。腰骨を中心に、体を反り起こして、お尻が飛び出している感じに。目線は真っ直ぐ目の高さぐらいを見て...」

「なんか、しんどい」

山本さん「腰の辺りにストレスを感じるぐらいでOK です。お扇子はこう、左手もお扇子を持っているようにして、腕を全部外にして肘から前だけ中へ...」

すでに体はカチカチ。女性だけど、ちょっと強そうなポーズです。

山本さん「腕の部分ですでに防御しているんです。こういう肘をはった構えは剣術と同じ。受け身になっているでしょ。もともと太閤さんに教えていた頃から、相手が剣術の達人なので、能役者の方がカタチが変わってしまったと言われています。泣いている時ですらしなりがない」

左手をかざせば、ちゃんと泣いているように見えます。横山さん、案外、筋が良いかも!?

続いて、構えからすり足の練習。これはみんなも参加して体験。
能は"歩行の芸術"と言われるほど、足の"運び"が重要。バレエなど、高くジャンプする舞踊とは対照的な、床に密着しながら舞う独特な舞台芸術です。

山本さん「そのままの構えで、左足からつま先を上げ、パタンとする時に右足のアキレス腱をギュッと伸ばす。その時左足に重心が乗っているから、今度は右足をスーッと前に持っていって、つま先を上げてパタンとする時にギュッ。またスーで、パタンとした時にギュッ、スー、パタン、ギュッ...」

「重心がぶれてしまう!」
「緊張してなかなか進めないです」
「早く歩かれへん!」

端から見ると、みんな吹き出しちゃうようなおかしな姿勢で、すり足の練習に夢中になりました。

能舞台ですり足の練習。腰を落として、足を上げないように。
服部さんもすり足の練習に参加。ちょっと違っているかも!?
3人で並んですり足。なぜかバラバラの姿勢・・・!?

能の普及を目的にした[山本能楽堂]の様々な試み。

山本さんからgraf に最初に仕事の依頼が来たのは、山本さんのご子息が初めてシテ役をすることになった時に持つ扇子のデザインでした。横山さんは、過去に扇子のデザインはしたことがなかったので、その時はかなりいろいろと調べたとか。

「『若松と千鳥を使ってデザインして欲しい』とだけリクエストがあって、graf らしいシンプルなものにしました。扇子を製作される京都の老舗の職人の方も、デジタルでの入稿は初めてだったようです。そんな伝統的なもののデザインをさせてもらえたことは、すごく貴重な経験でしたね」

山本さん「能で使うお扇子には、衣装が大きいので、開いた時には同じ大きさでも、閉じた時に大きく見えるように工夫されているものもあります。扇形のデザインは、山と谷の立体感もあって難しかったと思います。素敵にデザインしていただいて、ありがとうございました」

「今日見せていただいた内容は、一般の方も参加できるものなんですよね?」

山本さん「はい。舞台裏はご要望があった場合や特別な時だけですが、舞台に上がってもらったり、装束の着付けなどの内容は、『まっちゃまちサロン』という初心者の方向けの入門講座で体験していただけます」

この『まっちゃまちサロン』の他に、[山本能楽堂]では、夜7時からのスタートで会社帰りにも楽しめる『とくい能』など、解説やQ&A 付きで初心者でも気軽に楽しめる催しやワークショップがたくさんあります。山本さんが目指しているは、見るだけではなく参加して楽しむ能。昨年には『一万人の第九』ならぬ『200 人の羽衣』という、『羽衣』のキリ(結末)の詞章を観客200 人で合唱するというユニークなイベントも。

また、新聞にも大きく取り上げられ記憶に新しいのが、graf も参加した水都大阪2009の最終日に上演された新作能の『水の輪』。天満橋の八軒家浜桟橋に停泊している大型客船の船上に作られた特設ステージには、鏡板の松の代わりに美術家の井上信太さんが製作した現代アート版の松が飾られ、井上さんのワークショップで作った衣装や小道具を身に付けた子供達が舞台に立ちました。

  • 荒西さんと川西さんも艶やかな衣裳に袖を通しました。
  • 松に太陽と、波しぶきに太陽の扇。柄が違うと全然、印象が違います。
  • こちらは山本さんからのご依頼で、grafの横山さんがデザインした扇。金色と藍色が鮮やかです。
  • 『まっちゃまちサロン』の様子。山本さんに続いて、参加者の方々も謡います。
  • 美術家の井上信太さんが製作した、創作能『水の輪』の松と小道具。

この新作能は、「かつては美しかった淀川の汚れを嘆いて姿を消してしまった水の神様に戻って来てもらうために、水鳥たちが川の掃除を始めるが...」という水都大阪の環境をテーマにしたストーリーで、山本さんが作詞作曲したもの。

山本さん「今までも、うちではNPO 法人の[大阪アーツアポリア]の代表の中西美穂さんと一緒に『アートによる能案内』『能と遊ぼう』という子供向けのレクチャーを行っていました。その経験を元に、この『水の輪』でも井上さんにワークショップをやってもらって、鳥の形をした天冠や衣装を子供たちみんなで作ったんです」

「平松大阪市長も一緒に出演したんですよね?」

山本さん「はい、子供たちと一緒にご出演していただきました。約300人のほんとに多くの方に見ていただいて、有り難かったです。これは子供たちが『なんでや、なんでや、なんでやねん』とか台詞を大阪弁で言ったりするんですが、大阪以外の土地でもその土地の方言にアレンジできるし、海外でも外国語に変えてできます。川のある場所ならどこでも上演できる形態の能なので、いずれ世界中のいろんな川で演じることができたら...、と思っています。壮大な夢なんですけどね」

「素敵です!」
「見てみたいです」

山本さん「これはどんどん再演していきたい作品なので、ぜひ見に来て下さい」

山本能楽堂

06-6943-9454 大阪市中央区徳井町 1-3-6
http://www.noh-theater.com/welcome.html

伝統の枠に収まることなく、能の新しい可能性に挑戦し続ける山本さんの姿に、grafの3人も良い刺激を受けたようです。

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