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grafが近畿2府4県を旅して考えるきれいなくらし

09.10.21

Chapter.3 片桐功敦さんが語る生け花への想い、そして堺の街への愛着。

華道家としてだけではなく、ギャラリーオーナーであり、編集者であり、文筆家や詩人でもあり...。片桐さんの表現は形を変えて様々に拡がっていく。

中庭のお茶室で片桐さんのお母様からお茶を点てて頂きました。初めての体験に、みんなちょっと緊張気味!?

生け花の体験教室が終わった後は、片桐さんのご自宅の中庭に設けられているお茶室で、片桐さんのお母様とお弟子さんからお茶を頂きました。
その後、片桐さんとご飯を食べに。
そこで改めて、片桐さんが若くしてみささぎ流の家元を襲名することになった経緯や、生まれ育った堺の街でのくらしについてお話をお聞きしました。

片桐さんは、中学を卒業後、アメリカに住んでいた叔母さんを頼って渡米。
初めは英語もほとんど話せず、アメリカで最初に住んだ東海岸のメイン州は、9割が白人でアジアの人はほとんどいないような州だったこともあり、当初は人種差別もキツかったそうです。
ただそんな中で、ヒッピーを両親に持つ子どもたちは優しくしてくれて、彼らからボブ・ディランやニール・ヤングなんかのロックを教えてもらったそう。

「旅をする時は少なからず仕事と思って行った方がいい。自分の軸足ができて、後で自分の血肉になって残るから」

片桐さん「その頃、両親がヒッピーの友人と『ダンス・ウィズ・ウルブズ (Dances with Wolves)』(1990年、アメリカ、監督・主演・製作/ケビン・コスナー、第63回アカデミー賞作品賞、第48回ゴールデングローブ賞作品賞受賞作品)というネイティブ・アメリカンを題材にした映画を見に行ったんです。彼は小さい頃からご両親から、『自然を大切にしなさい』って教育を受けていて、その映画を見てすごい興奮して、映画の帰りに真っ暗闇の山の中のフリーウェイをクルマで走っている時に、突然、フリーウェイのど真ん中でクルマを停めて、クルマのライトを消して、いきなりボンネットの上に飛び乗ったかと思うと、突然、月に向かって吠え出したんですよ! それを見て、なんかすごいええなぁ、って感動して...。その時に彼が、『ネイティブ・アメリカンは自分の子どもに自然の景色とか、自然に生きている動物とか、花の名前を付けるんだ』って一生懸命に語りかけてくるんです。それを聞いた時に、すごいかっこいい考え方やなぁ、きれいやなぁと思ったんですね。その時の想いが、意外に自分が今、花を生けている原動力の1つになっているかも知れないですね」

片桐さん「日本に帰ってきた時に、日本の歴史書を読んだりして、日本も元々はネイティブ・アメリカンと同じように、自然や花と繋がって生きていたんだ、ということが分かって。それからですね、生け花の仕事がすごく楽しくなってきたのは」

そんな風にアメリカでの学生生活を送っていた1994年、お祖父さんの具合が悪くなったという連絡が入り、帰国することに。

朝日新聞大阪版に毎週火曜日「シゼンのカケラ」というコラムを連載。大阪を歩いて、道ばたの花を生けて文章と紹介。

片桐さん「私は小学6年の時に父を亡くしていて、さすがにその歳で僕が継ぐのは無謀ですから、みささぎ流の創流者である祖父が続けていたんです。母がサポートしながら。その祖父がいよいよ亡くなった時に、僕が継がなければいけないな、と帰国して華道の道へ。24歳の時です」

「それまでは華道は?」

片桐さん「子供の頃からいつかは継いで欲しいとは言われていましたが、本気で始めたのはアメリカから帰国してからですね。それまでは自分の中では、習い事の1つぐらいにしか考えていなかった。でも本格的に足を踏み込んでみると、充分に自分の一生を懸けるに足りうる世界だったと分かりました」

女性ファッション誌にも、エッセイを連載。文筆家としての片桐さんの文章からは、ロマンチストな側面が窺える。

片桐さん「みささぎ流は、良くもあり悔しくもあるところなんですが、僕でまだ3代目なんですよ。例えば有名な池坊は室町時代から少なくとも500年は続いている流派です。一代で1つのスタイルを作ったとすると、50代続いているならば50通りのスタイルがあるってことですよね。流派を継ぐってことは、その全部のスタイルを覚えた上で自分のスタイルをプラスして1つ創るってこと。だから歴史が長い流派を継ぐとなると、その分宿題も多いんですが、僕の場合は3代目だから宿題は少なかった。宿題が少ない分、自分で勉強しないといけないことは多いし、頼れるものが少ないから大変でした」

「どうやって勉強するんですか? まさか習いにも行けないし...」

主水書房の書棚には、安部公房、中沢新一、司馬遼太郎、レヴィ=ストロースと片桐さんの人生観が窺える本が並んでいる。

片桐さん「そう、違う流派の門をたたく訳にはいかないし、本で読んだり展示を見に行ったり、華道の背景となる歴史的な勉強はかなりしました。ただ、同時に自由な部分も多くて、新しいことをやっても誰に後ろ指を差される訳ではないけれども、他の流派から見たときに、これはちゃんと生け花足りうるものなのか、っていう部分は常に意識しながらやってきました。歴史の浅い流派だけに、常に生け花業界での立ち位置を確認しながらやらないといけない。自由と言えば自由、悲哀と言えば悲哀で...、そういう見えないプレッシャーは今でもありますね」

「やめたい、とか反発みたいなものはなかったんですか?」

片桐さん「アメリカに行ってる時代が反発だったのかな。帰国してもありましたが、反発っていうのは、多分、自分に自信がない時に出て来る感情だと思うんです。初めの頃は、こういう風に生けたいとか表現したいというビジョンはある程度あるものの、自分の手が付いていかない。そのもどかしさが反発になることはありましたけど、手が慣れてきて思っている形を創れるようになってくると、逆にどんどんのめり込みましたね」

そうして、家元を襲名して4年後、駅前の華道教室を閉めて、自宅であった日本家屋を[主水書房]として改築して、教室も移転しました。
「主水」はフランス語で「le monde」=世界という意味。
世界は主に水で出来ている、という意味を込めて名付けた。

  • 水都大阪「つかの間レストラン」での生け花のパフォーマンス『水辺の記憶』の様子。自作詩の朗読と即興の生け花による、幻想的で記憶に残る夜に。
  • 『水辺の記憶』で朗読された自作詩は、会場に備えられた朽ち果てた木船がかつて水辺を走っていた頃の記憶を回想したもの。片桐さんの声も魅力的でした。

片桐さん「うちの家は、祖父が花を飾れるスペースを念頭に建てていて、床の間が普通よりもたくさんあるんです。だから単純に生け花だけでなく、現代美術や詩人の言葉とか、緊張感をちゃんと持たせて飾れるスペースとして展覧会を企画したら面白いかな、と思ってこういう形にしました。自分がやっているお花も、他のジャンルのアートと並列で見せられるような、イレギュラーなやり方もここならばできると思います」

部屋の真ん中にあった、左官職人の久住さんの作品もまさにイレギュラー。
久住さんとは、たまたまご自宅の壁を塗り直すのに良い職人さんを探していた時に出会ったそう。すぐに意気投合して、片桐さんの初めての個展では器も制作してもらいました。
互いに想像以上におもしろい仕事ができたことで、さらに仲良くなったとか。

一方、grafとの出会いは、最初は片桐さんからのアプローチでした。
[主水書房]を運営するにあたり、初めて作ったDMを「置いてもらえませんか?」とgrafを訪ねたのが最初。

写真集『漕 kogi』(主水書房)より。津田直さんが撮影した、日本の原風景のような奥琵琶湖の漁村の写真。

片桐さん「その時やっていた写真家の津田直さんとの展覧会を、grafのスタッフも見に来てくれて、すごく気に入ってもらえて。しかもたくさんの美術愛好家の方々に紹介してくれたりして、そこから一気に見に来てくれる人が増えたんです。やっぱりスゴい力があるんやなぁ、って感じました。そういう意味でgrafにも感謝だらけなんですよ。正直言って、僕にとってgrafの人たちはとてもカッコいい人たちだった訳です」

「そんなん、初めて聞きましたよ(笑)」

今ではすっかり仲良くなって、互いにイベントなどでも協力し合う関係です。
しかしgrafのメンバーが堺という街を散策するのは今回が初めて。
最後に堺という街について訊いてみました。

写真集『漕 kogi』を和英併記のバイリンガルにしたのは、かつての琵琶湖の風景が忘却されている様は、形を変えて世界中で起こっている出来事と思ったから。

片桐さん「それこそ花の勉強をしている頃は、大和川を越えることがほとんどなく、ずっと堺から出ない生活でした。毎日毎日、花の勉強をして、人に教えて...。30歳ぐらいまでの5~6年は、ほとんど毎日、家で花を生けていました。だから『ミーツ・リージョナル』や『Lマガジン』といった雑誌の情報も、近いようで東京でやっているのと変わらないくらい自分の中では遠かったんです」

「片桐さんにとって堺はどんな街ですか?」

片桐さん「堺の街への愛着はありますよ。もうポツポツとしか名残はないけれど、安土桃山時代の堺って、今で言う六本木みたいな状態やったと思うんですよ」

「ろ、六本木ですか!?」

片桐さん「戦争で大半が焼けてしまったけど、あそこに終世の千利休がお茶を生み出す機動力となった経済力があったり、南蛮から外国人が持ち込んだ食べ物が出回ったり、西洋の文化が入り乱れていたんです。そういう背景の中で、時を経て仁徳天皇陵が、宮内庁の管轄によって守られているっていうことが大事だと僕は思うんです。あの森って人の手によって造られるのではなくて、時の経過を経ないとあんな風にならないから。そんな領域があの場所にあって、その下に終世の六本木があったっていうダイナミズムがあるわけですよ、堺には。今日はその面白さを知ってもらいたくて、ちょっと強行軍やったんですけど、和菓子からお香、鋏鍛冶まで伝統を遡ってもらって、仁徳天皇陵に立ち寄ってから[主水書房]に来てもらって、後半はお花とお茶を体験してもらうというコースにしてみたんです」

「なるほど、時間軸とロケーションをリンクさせた訳ですね。堺の街の魅力を満喫できて、おもしろかったです!」

こうして考えてみると、片桐さんのみささぎ流が堺で生まれ、堺にあるということもまた、これから時代を経て、また何か歴史的な意味をもたらすような...。
ほんの一部分に過ぎないけれど、堺の歴史と文化に触れ、生け花体験で今の自分を見つめ直す、新発見だらけの一日でした。

Fin
(取材/天見真里子)

grafからのメッセージ

今回、片桐さんに地元の堺の街を案内してもらい、そして片桐さんの日常である生け花教室に参加したことで、様々な新発見がありました。

まずは堺の街について。
堺を初めて訪れたメンバーも多くて、こんなに独自の奥深い歴史を持つ街で、その歴史が今も、人々の暮らしや街のあちらこちらに息づいているとは...、と興味津々の半日観光でした。

「堺という街にもとても興味を持ちました。昔から続いているお店やお寺、古墳や大きな公園もあって、伝統や文化を大切に守っている人が多いように感じました。今まではなかなか訪れる機会がありませんでしたが、またぜひ行きたい所になりました」

また、片桐さんのご指導による「生け花教室」の体験は、改めて日本古来の文化を見直すだけでなく、自分自身と向き合う貴重な時間となりました。
みんな帰りには、「またお花を生けたい!」と思っていました。

「敷居の高いイメージだった生け花をとても分かりやすく指導してもらって、花を生ける事に興味が湧きました」

「今までフラワーアレンジメントの教室に行ったり、家で花を生けたり育てたり、と経験はあったのですが、今回初めてきちんと生け花を体験してみて、日本古来の文化に対する愛着を強く感じました」

「片桐さんは『真・行・草』でいう『草』の部分を作りましょう、と手直しして下さいました。窮屈だったお花に隙間を作ることで、いい気が巡り、開放された感じになりました。お花にも自分の心が正直に表れるんだな、と実感しました。お花を通じて、私の心を優しく丁寧に直して頂いたようにも思えます。日々の生活の中で、シュンと背筋を延ばしてお茶を入れたり、お花を生けたりという時間を持つことは、日本の素敵な文化だと思います」

そして片桐さんについて。今まで一緒に仕事をする機会も多く、片桐さんのことならよく知っていると思っていたけれど、私たちが知っていたのは片桐さんの世界のほんの一部分だったのがよく分かりました。
片桐さんが今まで経験されたことや華道家という仕事についての話しをお聞きして、改めて片桐さんの "スゴさ"や"奥深さ"を感じました。

「華道家になられるきっかけから、今までの様々な経験などの話しをお聞きして、片桐さんの奥深さを知りました。今後のご活動がますます楽しみです」

「ルールや格式に囚われずに、おもしろさを伝える難しさを教わるとともに、僕も人に教える仕事をしているので、片桐さんの指導の仕方、伝え方がとても勉強になりました」

最後に、尊敬する仕事仲間でもあり、友人(「あえてそう言わせて下さい!」)でもある僕、置田から。

「改めて片桐さんのことを話すことも照れるんですが、今回、丸一日、ご一緒させてもらって、やっぱり懐の深い人やな~、と思いました」

午前中の、自転車で廻った堺ツアー。
千利休に縁のエリアから堺の名産や伝統工芸に触れて、最後は仁徳天皇陵まで。
それも「古代から中世まで」という壮大なテーマを設けて僕たちを案内してくれたし、後半の[主水書房]での生け花体験は、生け花という古典的にも見える枠の中で、僕たち一人一人の個性を生かしながら、「自由な感性」の大事さを伝えようとしてくれていた...。

その名プロデューサーっぷりは、かの千利休を彷彿とさせる...!?

これからもよろしくお願いします!

取材後、ご飯をご一緒しながらのお話しでは、ロックや映画、旅や歴史、食の話からクロード・レヴィ=ストロースまで飛び出して、想念が縦横無尽に拡がる思索家としての魅力を感じました。

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