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grafが近畿2府4県を旅して考えるきれいなくらし

09.10.21

Chapter.2[主水書房]にて、片桐さんのご指導で生け花体験。

緑豊かな森の仁徳天皇陵。ここから先は、宮内庁の管轄で立ち入りできない。

午前中、自転車で片桐さんの馴染みのお店をご案内頂いて、お昼は片桐さんオススメの[弥助]というお寿司屋さんで。
大正時代創業の堺でも屈指の老舗です。
江戸前鮨を堪能した後は、また自転車に乗って、片桐さんの[主水書房]がある三国ヶ丘方面へ。途中、仁徳天皇陵も見学。
周囲は神聖な空気が漂う遊歩道になっていて、片桐さんのお気に入りの場所なども案内してもらいました。

2005年に自宅だった日本家屋を改装してオープンした[主水書房]は、自由に閲覧できる図書室や企画展示スペースも施設内に設けた、ギャラリーと生け花教室を兼ねたサロン。
生徒さん以外の一般の方にまで開けたスペースです。
今では生け花の経験の無い人が、大阪府外からも多く訪れるほど。
それもそのはず、片桐さんの[主水書房]としての活動は、華道家という枠を越え、フォトグラファーや書家、カフェオーナーなど、アーティストや交流のある異業種のお知り合いとのコラボレーションまで、多岐に渡ります。
様々な作品の展示だけに留まらず、写真家の津田直さんと奥琵琶湖を旅して完成した写真集『漕 kogi』(主水書房)も発刊。奥琵琶湖に残された美しい日本の姿を納めたこの『漕 kogi』の写真は、2008年に[graf media:gm]でも『狭間の旅人』と題した作品展で紹介されました。

  • こちらが「花道みささぎ流」の生け花教室でもある片桐さんのご自宅。この家屋の一室に[主水書房]がある。
  • 日本家屋の一室に設けられた[主水書房]。片桐さんセレクトの本や写真集、CD、レトロ調の雑貨などが思惑的、かつ整然と並べられている。
  • 主水書房発行の津田直さんの写真集『漕 kogi』より。津田直さんが撮影した琵琶湖の写真と片桐さんの活け花のコラボレーション。

お家の中庭に面したお花を生ける部屋に入ると、そこにはこの連載の第2回目に訪ねた左官職人、久住有生さんの土で出来た大胆な作品が(久住さんの作品の一般公開は11/13(金)~16(月))。
床の間にはすでに花器が準備されてました。

取材時には、床の間に左官職人・久住有生さんのインスタレーションが。日本家屋の床の間にいきなりこの作品が出現してびっくり!

片桐さん「今日は、僕が担当している教室で、実際に行っているやり方の1つを皆さんに体験して頂きます。様々な形の器が目の前に並んでいますが、まずは皆さんが生けたいと思う器を選んでから、隣の部屋に数種類の花材を用意していますので、花を自由に選んで生けて下さい。皆さん、普段の暮らし方も人それぞれですし、趣味や好きな花、色合い、雰囲気といった個性が、生け方に出るところが生け花の一番面白いところです。100人いたら100通りの生け方があって当然。植物だって一輪たりとも同じ花はありませんから」

片桐さんのお話を聞きながら、みんな並んでいる器をじっくりと見定めています。

「どんな花を生けようか?」みんな花材選びに夢中です。

片桐さん「初めての方は、花や枝に鋏を入れることがこわくて、長いまま使う傾向がありますが、きっちり鋏が入っているお花はきれいですから、怖がらずに積極的に鋏を入れて、無駄なところは落として、その花の最も美しいラインを出してあげて下さい。花という自然のものを使っていますけれど、生け花は自分の主観が入った『人工の美』です。最終的に『人工の美』を『自然の美』にしてあげる、という逆説的なところから始まりますので、皆さん自分の主張を花に伝えて、花が答えを返してくれるように、感じながら生けてみて下さい。ギブアップの人、または完成した方はお声を掛けて下さい。皆さんの初期衝動の部分をなるべく活かした形でアドバイスしながら、一緒に仕上げたいと思います。ではこれから約1時間半の間、よろしくお付き合い下さい」

器を選んでから、みんな一斉に別室に用意された花を選びにいきます。
まるで『料理の鉄人』の生け花バージョン!? いいえ、競い合いではありません...。

今回用意されていた花は、
ススキ、ワレモコウ、アスター、マトリカリカ、ナナカマド、オミナエシ、ホトトギス、ガーベラ、スカビオサ、キキョウなど...。

堀田さんも川西さんも初めての生け花に夢中です。後ろには冨田さん。普段のお料理や酒造りとどっちが難しいですか?

「難しい~」という声もちらほら出るものの、みんなほぼ無言で花器に向かい、真剣なまなざし。自然と背筋も伸びています。

約1時間が経過した後、まずは堀田さんが「ここからどうしたらいいか分からない」と、ギブアップ。
楕円形の水色の花器に、白や紫の花やナナカマドの実など、小さめの花を中心に数種類選んで生けています。背後にはススキもあしらわれています。

「満月の夜に河原に咲き乱れる野草、がテーマです。が、最終的なまとめ方に迷ってしまって...」

堀田さんの作品を手ほどき。ほんのちょっと手を加えただけで、花やススキの一体感が醸成されて。

片桐さん「なるほど。野花の雰囲気が出ていてとてもいいですね。花だけではなく葉っぱを添えてあげると、より自然な感じにまとまると思います」
と、ナナカマドの葉を少し間引き、手でクイ、クイッと少ししならせて、花の後ろ側に差していく片桐さん。今までススキと花類とが別々に見えていたのが、葉の緑を加えることで、アクセントにもなり、花とススキが自然とつながって見えるようになりました。

「満月の夜に河原に咲き乱れる野草」がテーマという堀田さんの作品。葉の緑やススキもアクセントとして効いていて、調和が取れています。

「すごい...! 全然さっきと違う。ありがとうございます」

片桐さん「料理をお皿に盛る感覚と似ているところもあるんでしょうね。小さい花ばかりでまとめるなど、テーマに沿った花の選び方もさすがです」

次に手を挙げたのは冨田さん。
白い円形の花器を使い、水の上にナナカマドの実を敷き詰め、中央からススキが背高く伸び上がっています。

片桐さん「すごく独創的ですね。形よりも色で見せていらっしゃるんですね」

冨田さん「オレンジ色のナナカマドの実をパワーの源とみなして、ススキはそれを吸い取ってググッと発展していくような...、そんなイメージで生けました」

冨田さんの作品は水の上に敷き詰めたナナカマドの実からススキが伸びる独創的な作品。

片桐さん「なるほど。下と上とのバランスを考えると、ススキはもう少し低くてもいいと思います。あと5本ほどススキを足しましょう」 と、ススキの本数を増やし、全体的に10cmほど低くして穂の部分を放射線状に広げると、よりパワーが感じられる作品になりました。マトリカリカやオミナエシなどの花を上に加えることで、下の実の部分だけに目線がいかないよう、全体を調和させる効果も。

続いては冨田さんの隣で生けていた川西さん。
黒い楕円形の花器に、ススキ、ワレモコウ、ホトトギスなど、花を数種類使いながらもモダンな雰囲気です。

「私はこのスカビオサという花が大好きなので、これを使いたかったんです」

片桐さん「なるほど。主役の花を決めて生けるというのも方法の1つです。では少し触りますね」
と、マトリカリカやナナカマドなどの花を少し手前に寝かしたり、全体的に広げるような感じで手直ししていきます。

川西さんの作品はスカビオサの花を主役にワレモコウやホトトギスなどの花を使い、秋の美しさが感じられる作品に。

片桐さん「こうすると、空気が通る場所ができるので、ほら、お花がくつろいできた感じになるでしょう。川西さんが選ばれた花は、色がそんなに多くないけど繊細で瑞々しい。日本の秋の美しさが感じられる生け花ですね」。

今回のメンバーで唯一の経験者の濱中さん。さすが経験者だけあって、手直しするところもそんなにありませんでした。

この企画に初参加の濱中さんは、今回の参加者の中では唯一の生け花の経験者。時間を掛けてじっくり生けていました。お皿状の平べったい花器に様々な花を使い、ボリューム満点に、でもごちゃごちゃした感じにはならずまとめています。

「キキョウとナナカマドを使いたかったんです。野生の花を積んで来て生けたようなイメージです」

キキョウとナナカマドを中心に、ボリューム感満点でありつつもスッキリとまとめられた、濱中さんの作品。

片桐さん「いい感じですね。あまり手直しするところがありませんね。強いて直すとすると、この倒れているのはやめた方がいいかな。あとは長いススキがちょっと唐突なので、もう少し低くして、穂を広げて散らしてあげましょう」
と、葉を後ろに足したり、重たい印象のものは鋏を入れたりしながら、手早くバランスを調整していく片桐さん。すると、全体のイメージはそのままに、最初よりも動きが出た感じに。

白のキキョウを中心に秋のさわやかさを感じさせる、井上さんの作品。重心を左にずらすと、いいバランスに。

井上さんが選んだ器は、鮮やかな空色の楕円形のベース。
白のキキョウを中心に、秋のさわやかさが感じられる生け花です。

片桐さん「秋の月夜が似合うような素敵な生け花ですね。月見の時に飾りたいような...」

「ワレモコウの少し弱々しい感じが好きで、目立たせてあげようと。あとは創り上げていく間にいろいろ発見があったので、それを繰り返し反映させながら生けました」

片桐さん「足もとをきれいにまとめるために、少し本数を減らしましょうね。葉っぱと花でワンセットなので、切り離して生けない方がいいですね。自然な感じに」
そして剣山の場所を中央から左へ。左に重心をもってくると、右側のワレモコウの存在が引き立ち、より生け花らしいバランスになりました。

最後まで生けていたのは置田さん。
水の上に花をランダムに浮かせてあり、真ん中からナナカマドが、まるで一本の木のようにトップだけ実を残して生けてあります。

「お昼に話をしていたインドのガンジス川の印象が強くて、それを表現してみました」

この日、お昼ご飯にお寿司を食べていた時に、冨田さんがつい最近、インドを一人旅して、ヒンズー教の聖地であるベナレスを訪れた話をしていて、片桐さんもかつてベナレスを訪れたことがあったそうで盛り上がったのです。ヒンズー教徒は、死後に聖なる河であるガンジス川に流されることが最も幸せとされ、川のほとりでは布に包まれた死体が何体も焼かれるのを待っているそうです。

「川に浮かぶ死体を満月が見守っている、そういうシーンを考えながら生けました」

ズバ抜けて個性的な置田さんの作品。ガーベラの花とススキの葉を加えて、落ち着いた雰囲気に。

片桐さん「置田くんらしい、唯一無二やなぁ。魂として何か花を足してあげたいね。何だろ、ガーベラって気がするよ」
と、片桐さんは、ガーベラを少し短めに切り、ナナカマドに沿わすように正面に向けて剣山に刺しました。そして水に浮かぶ花を中央に集め、そこに白いキキョウも浮かべました。

片桐さん「より面白くするには、葉っぱかな」
最後にススキの葉っぱを輪っかにして、根元に巻き付けると、上下のバランスがちょうど良くなり、また緑が入ることで少し落ち着いた雰囲気に。

みんなそれぞれ片桐さんのアドバイスと手直しによって、グンと良くなりました。
もう「さすが!」の一言。
「初期衝動の部分を活かして...」の言葉通り、本人の作品の世界を崩さず、少し話をしただけで、何をどう生けようとしていたのかを、花を生けた状態からくみとって、素早くアレンジをしていく片桐さん。
生け花の面白さと難しさを同時に体感できた濃い時間となりました。

一方、片桐さんから見た今日のレッスンは、というと...。
片桐さん「多分、今日は普通のレッスンにならないだろうなと思っていたら、やっぱりとてもおもしろかったです。花を生けられるか生けられないかは問題じゃなくて、生けられない人でもそこに主張があるかないかがスゴい大事なんですよ。主張さえあえば、会話はできるんですよね。いつも僕は、生けたお花はどんな人でもその人の鏡だと思っています。だから、その人の心の状態が出ているものを直すという行為は、非常にプレッシャーでもあるんです」

「家元と呼ばれる方でもそういったプレッシャーはあるんですね」

片桐さんのご自宅近くにある並木。片桐さんはよくここを訪れて、この並木の下を通るのがお気に入りだそうです。

片桐さん「もちろん。中でも主張がない花を直させていただくのは一番難しいんです。さじ加減が分かりませんから。でも今日は全くプレッシャーはありませんでした。どの作品を見ても、こういう風にしたいんだろうな、したかったんだろうな、という足跡が見えるから、それに沿って直せるんですよね。こういうのは僕にとってもすごく有意義なんです。欲を言えば、今日みたいな感度の良い方たちを生徒に迎えて、おもしろい花を生けられる人がたくさん出て来ると、すごく気分的にも豊かで刺激になるだろうと思います」

「生け花に正解はあるんですか?」

片桐さん「無いと思いますよ。むしろ無くていいと思います。ただ、きれいなものとそうじゃないものはあると思います。例えば10人が10人、きれいじゃないって言うものを、1人だけ頑にきれいだと言うのは、間違いだと思いますよ」

主水書房

堺市堺区陵西通2-15
TEL/072-227-7980
http://www.geocities.jp/mondebooks

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